今季5年ぶりのセ・リーグ制覇を果たした巨人で大きな役割を果たしたのが、内野守備兼打撃コーチとしてチームを支えた元木大介ヘッドコーチ(47)だ。昨オフの就任時には「タレントコーチ」ともやゆされたが、ふたを開けてみれば原監督も大絶賛の辣腕を発揮。成功の裏にあった同コーチの“陰の努力”とは――。

 2005年の現役引退以来、今季初めて巨人のユニホームを着た元木コーチは、内野守備兼打撃コーチとして初入閣するもプロでの指導経験は皆無。しかも、長らくタレントとして活動していただけに当初は指導力に懐疑的な目も向けられた。

 だが、その手腕は原監督も「素晴らしい統率力、洞察力。野球の技術、戦略、知識がすごくある」とうなるばかりで今オフはヘッドに昇格。少なからず“タレント上がり”と見下された元木コーチには押し殺し続けた悔しさがあったはずだ。

「去年の今ごろは猛反対されてたな。『お前にできんのか?』って。そうだろ?」。そう胸を張った元木コーチは豪快なイメージもあるが、繊細な気配りも欠かさなかった。

 例えば、8月31日の阪神戦(甲子園)。先発した山口は7回途中3失点と好投しながら敗戦投手となった。元木コーチはベンチで降板直後の山口のもとへ駆け寄り「最多勝もかかっているのに申し訳ない。今度は点を取るからな」と真っ先に頭を下げた。

 相手が年上コーチだろうが、自分の管轄外だろうがちゅうちょなく切り込んだ。「投球の技術は教えられない。でも、自分で気づいたことは必ず言った」。時には投手を「お前、もっとサイン見ろよ」と一喝し「お前は10球でいいからバント練習しろ。自分が送って点が入れば得するのは自分なんだから」とも…。もちろん、投手部門を預かる宮本コーチには報告を入れたが、チームを改善するため進言する枠はどんどん広がった。

 元木コーチは「『先発投手には必ず走塁練習も(メニューに)入れてください』と伝えた。管轄外ではあったけど(走者となった投手にも)打球判断は必要。本塁打でかえって来ようと思っても、そんなに本塁打は出ない。(自分が)そこを我慢して黙ってもな…。バントの形も打撃コーチが教えなきゃいけない。投手のバント練習も打撃コーチが付いてあげないと」と知られざる内幕を明かした。

 来季は打撃部門だけに特化しない「野手総合コーチ」が新設されるが、すでに元木ヘッドは肩書にとらわれることなく縦横無尽に駆け回っていたわけだ。ヘッドコーチとなり原監督と現場首脳陣をつなぎ、本格的に全方位へ物申せる立場となった。「(今季の就任当初は)遠慮もあったのかなというのもあった。(気づいた点があれば)もっと言っていきたい」と意気込む鬼軍曹に今後も注目だ。