さりげないが侮れないコーチの移籍 今季ロッテが天敵・鷹から貯金「9」はその表れ

2019年12月03日 11時00分

平石打撃兼総合コーチ

【球界こぼれ話・広瀬真徳】選手移籍の陰で今オフも各球団のコーチが目まぐるしく入れ替わった。

 たとえば楽天は、監督だった平石洋介がソフトバンクの一軍打撃兼野手総合コーチに電撃移籍。他の楽天コーチ陣も森山良二がソフトバンクへ。小谷野栄一はオリックス、栗原健太が中日へ移籍するなど、他球団の要職に就いた。楽天以外でもヤクルトの石井琢朗打撃コーチは巨人へ。ロッテの大村巌打撃コーチもDeNAの一軍コーチに就任した。

 監督交代によるチーム事情や他球団からの招聘などおのおのの移籍事情は異なる。だが、前年までチームの重責を担っていたコーチの相次ぐ異動。情報流出を含め、各チームに様々な影響を及ぼさないのか。

 先日、食事の席でコーチ経験のある球界OBにこの点を聞いたところ「周囲は平静を装いますが、現場は相当焦りますよ」とこう続けた。

「ライバルチームに有力コーチが引き抜かれれば、その分野の情報が一挙に流出してしまうわけですからね。実は結構な痛手なんです。仮に打撃コーチであれば、主力打者の好不調の波やカウント別の対応力、個々の修正点などが筒抜けになってしまう。そうなると対策を立てられやすくなるし、そこを狙われ自軍の打者が意図せぬうちに不調に陥る可能性もある。これは投手も同じ。だからリーグが同じだったりライバル球団に有力コーチを引き抜かれるのは、どのチームも避けたいのが本音です」

 今シーズン、その“恩恵”を受けたのがロッテと言われる。チームは2018年シーズンまでソフトバンクにカモにされ、昨季も25試合で9勝15敗1分けと散々だった。ところが、今季はソフトバンクに17勝8敗と大きく勝ち越し。1球団から実に「9」もの貯金を得ることに成功した。この要因はロッテの井口監督が現役引退後から元ソフトバンクコーチ陣を次々と招聘。集まった首脳陣が古巣を丸裸にした結果だろう。

 コーチの移籍はチームの育成計画にも少なからず影響を及ぼすという。

 一般的に若手やルーキーの育成は球団主導で行われるものの、直接指導にあたるのは投手、野手それぞれの各担当コーチ。各選手の個性を把握しながら主力へと成長させるのが主な役割だ。その過程で担当コーチが他球団に引き抜かれると若手育成の一貫性がなくなる恐れがあり、指導を受けていた選手の動揺も計り知れない。

「コーチが頻繁に代われば、若手選手は誰の指導を信じればいいかわからなくなる。特に高卒ルーキーや20代前半の若手は担当コーチの指導を忠実にこなす分、そのハシゴを外されると混乱してしまう。実際、コーチの入れ替えによって投手、野手ともに成績が急降下、選手寿命を縮めた選手は多い。そう考えるとコーチ人事は有力選手の移籍以上に厄介と言わざるを得ない」(前出ОB)

 一般社会でもヘッドハンティングは日常的に行われる。球界も例外ではない。来季の勢力図を大きく変える可能性があるオフのコーチ人事。さりげなく行われているが侮るわけにはいかない。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。