山口俊によって巨人は変わった かつてはタブーだったポスティング

2019年11月26日 16時30分

ポスティングによるメジャー挑戦を表明した山口俊。左は原監督、右は今村社長

【赤ペン!赤坂英一】最近、これほど、巨人も本当に変わったなあ、と感じた出来事はない。5年ぶりの優勝に貢献し、最多勝をはじめ3冠を獲得した山口俊投手(32)が、ポスティングシステムでメジャーリーグに移籍する。しかも、2016年オフにDeNAから巨人にFA移籍する際、山口がポスティングを希望した場合、巨人が協力するとの約束が交わされていたというのだ。よくぞ渡辺恒雄・読売新聞グループ本社主筆が容認したものだと思う。この人がオーナー、球団会長、最高顧問の肩書で巨人のトップに君臨していたころは、「ポスティングはいかん!」と散々批判していたからだ。

「メジャーに日本の選手を取られるだけの制度は片務的だ。わが巨人は、育てた選手をカネで売り飛ばしたりはしない」

 片務的とは契約当事者の一方だけが義務を負うこと。今夏、トランプ大統領が「日米安保条約は片務的」と発言したように、国際政治の場でよく使われる言葉である。

 振り返れば、1998年に施行されたポスティングは、巨人の補強戦略にとって常に大きな障害となってきた。渡辺オーナーの主張によってドラフトに逆指名制度が導入された時代(93~06年)、「将来はポスティングで早いうちにメジャーに行きたい」と望むアマの有力選手が続出。皮肉にも、大学、社会人の新人たちが巨人以外の球団を逆指名するケースが出てきたのだ。当時、巨人のスカウトはひそかに嘆いている。

「ヨソの球団は、将来はメジャーに挑戦させると言っていい選手を口説き落としてる。ウチは同じ手が使えないからなあ」

 今でこそ当たり前になった契約更改の代理人交渉にも、渡辺オーナーはよくかみついていた。「代理人を連れてきたら年俸カットだ」と発言し、共産党のしんぶん赤旗に「不誠実な対応」などと批判されたこともある。

 そうした最中、03年オフの契約更改で、入来が代理人交渉とポスティングによるメジャー移籍を訴えた。球団幹部はこれを拒否し、入来を日本ハムへトレードしている。それぐらい、当時の巨人ではポスティングはタブーだったのだ。

 しかし、山口によって巨人は変わった。今後の戦力補強はポスティング容認を前提とした戦略に切り替わるだろう。われわれ古株の記者が巨人の騒動に右往左往していた時代も今は昔、である。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。毎週金曜朝8時、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」出演中。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」(講談社)などノンフィクション増補改訂版が電子書籍で発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」(PHP文庫)など。最新刊は構成を務めた達川光男氏の著書「広島力」(講談社)。日本文藝家協会会員。