【取材のウラ側現場ノート】あの日、ダイエーの王監督は日付が変わってもユニホームを着たままだった。長嶋巨人と雌雄を決した2000年の日本シリーズ第6戦が行われた10月28日。3時間16分の激闘を終え、2勝4敗で2年連続の日本一を逃してから約5時間後のことだった。

 王監督は東京ドームからバスで東京都内の宿舎に戻り、退団が決まっていた黒江助監督によるあいさつなどのセレモニーを済ませると、球団幹部とのミーティングを招集した。「こんなときだからこそ、しっかりと反省しないといけない」との考えからだ。

 一部の幹部が外出していたことから、日本一奪回に向けたミーティングは思いのほか長引いた。最後まで“お付き合い”させてもらったのは本紙記者2人を含めた3社5人。話し合いを終え、午前2時半過ぎにユニホーム姿でロビーに現れた王監督は「ここでいいかな」と言って長椅子に腰を下ろし、律義に取材対応してくれた。

 ミーティングではよほど熱い激論を交わしていたのだろう。口調は柔らかだったが、話の内容はいつも以上に熱かった。巨人の大型補強を引き合いに「お金だなんだ言われているけど、そうじゃない。うちに足りないのは愛なんだよ、愛!」。のちに聞いた話では、球団幹部に対してもチームへの愛の重要性を涙ながらに訴えていたという。

 外食を終えて宿舎に戻ってきた主力選手が「監督、なんでユニホームのままなんですか!」と目を丸くしていた。それでも構わず王監督は話を続けてくれた。

「去年日本一になって、巨人にも勝っていたら目標を失っていたかもしれない。負けたっていうことはまだまだ足りないところがあるということだし、これで良かったのかなとも思う」。そう言ってから、一拍置いて切り出した最後のひと言は今でも忘れられない。「でもね、勝ちたかった…本当に勝ちたかった」

 現在は立場こそ変わったが、巨人との頂上決戦が決まって以降の王会長の情熱は現場記者の報告からもヒシヒシと伝わってきた。19年を経て達成した打倒巨人。なんか、すごくうれしい。 (運動部デスク・礒崎圭介)