【赤坂英一 赤ペン!!】今年ばかりはプロ野球のCSもラグビーW杯の大波にのみ込まれている感がある。

 テレビ視聴率は5日の日本―サモア戦がスポーツ中継今年最高の関東32・8%、関西31・6%、瞬間最高46・1%を記録(数字はビデオリサーチ調べ。以下同)。13日の日本―スコットランド戦は39・2%と、さらに上回った。

 一方、CSファイナル第1戦は9日の“伝統の一戦”巨人―阪神戦が7・7%。ラグビー日本戦の足元にも及ばない上、同日夕方からのスコットランド―ロシア戦の5・1%といい勝負だった。

 その9日昼、私はアルゼンチン―米国戦を観戦。埼玉・熊谷ラグビー場の前でボランティアの方々に両国国歌の歌詞カードを渡された。それも原語の下に片仮名で読み仮名が振ってあるという親切さ。試合開始前、これを手にした私を含む2万4000人以上が両国国歌を続けて熱唱した。

 これには両国の選手や監督もいたく感激して「日本はW杯を開催するのにふさわしい国だ」と絶賛。プロ野球はチームも観客も黙って君が代の演奏を聴くだけだから、ラグビーは試合前の盛り上がりから随分違う。

 ラグビーの観客席は敵味方が分かれておらず、どちらかが得点するたびにあちこちで歓声が巻き起こり、国旗が振り回される。野球のような鳴り物は一切なく、無料配布されたTRYハリセンと手拍子だけ。観客の肉声が響く中、前後半1時間20分、敵と味方が一体化して試合を楽しむのだ。

 このスタイルは、私が観戦した味の素スタジアムのフランス―アルゼンチン、イングランド―アルゼンチン、静岡スタジアムの南アフリカ―イタリアと一貫して変わらず。コスプレした外国人と日本人がスマホで写真を撮り、ファン同士でつかの間の国際交流に興じている姿も見られた。

 試合後は勝者と敗者が互いに花道を作り、ハイタッチをして健闘をたたえ合い、ファンに手を振る。さらに米国は4方向のスタンドの前へ行ってお辞儀。アルゼンチンは観客が投げ入れたスマホを受け取って、その客が写り込むように自撮りをしてスマホを投げ返していた。これ、日本のプロ野球でもはやってほしいファンサービスである。

 なお、ビールの売り子さんは普段、プロ野球の球場で働いている人が多い。熊谷でビールを買った売り子さんは「いつもは横浜にいるんです」。わがプロ野球も、少しはW杯の盛り上がりに貢献しているらしい。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。毎週金曜朝8時、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」出演中。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」(講談社)などノンフィクション増補改訂版が電子書籍で発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」(PHP文庫)など。最新刊は構成を務めた達川光男氏の著書「広島力」(講談社)。日本文藝家協会会員。