【大下剛史・熱血球論】平成の終わりに黄金期を築き上げたカープは過渡期を迎えた。令和に入ってリーグ優勝は3年連続で途絶え、若手だと思っていた主力の中心メンバーはいつしか三十路に突入。今季中には内野の要である菊池涼と投手の野村、捕手の会沢が国内FA権を取得した。彼らがどんな決断を下すかはさておき、チームとして新たな形を模索すべき時期であることは確かだ。

 そのタイミングで佐々岡新監督が誕生した。現役時代からカープ一筋でチームの内情を熟知しており、人柄の良さは誰もが認めるところ。球団は本当にいい人選をしたと思う。
 彼が入団したのは、私が山本浩二監督のもとでヘッドコーチをしていた1990年。体の線が細く、走ることが嫌いで、ブルペンで投げても左肩の開きが早く、褒められた投げ方じゃなかった。それが試合でマウンドに上がると一変する。それこそ一球一球に「全身全霊」を込めて打者に立ち向かっていった。

 プロ1年目から先発にリリーフにとフル回転。「ササ、悪いが行ってくれるか」と聞けば、どんなに疲れていても答えは「はい」。91年のリーグ優勝は当時の絶対的エースだった佐々岡の奮投でなしえたものだった。

 忍耐強く、明るさと思い切りの良さがある。それらは今のカープに必要な要素であり、そういう星のもとに生まれてきたのだろう。

 とかく投手は“お山の大将”タイプが多く、監督には向かないとも言われる。その点、佐々岡新監督は親分肌ではあっても偉そうにするところがない。投手だけでなく野手からも愛される、エースには珍しいタイプでもある。

 初めて指揮を執るのだから、不安や戸惑いもあるだろう。就任会見では「V奪還」を目標に掲げていたが、そう簡単なものではない。脇を固めるコーチ陣にはしっかりと支えてもらいたいし、ファンにも温かく見守ってもらいたいと思う。

 一つアドバイスを送るとするなら「体を絞れ!」と言っておきたい。引き締まった体になれば、周囲も投手コーチ時代との違いを感じてくれるだろう。何より本人の健康のためにも、その方がいい。

(本紙専属評論家)