【取材のウラ側 現場ノート】これぞ千両役者だ。今季限りで現役引退する巨人・阿部慎之助捕手(40)が27日、本拠地最終戦となるDeNA戦に「4番・捕手」で先発出場し、通算406本塁打となる7号ソロをかっ飛ばした。東京ドームは背番号10の活躍に大盛り上がりとなったが、この試合でのぞかせたのは指導者として進化する阿部の姿だった。本紙巨人担当記者が感じ取った一面とは――。

「社会全体にパワハラが問題視されているところなんで、最後は叩かずに終わりました」

 大観衆の期待を裏切り、澤村の頭をはたく“名場面”を再現しなかった阿部の試合後の言葉を聞き、どんな指導者になるのか楽しみになってきた。

 初めてまともに話をしたのは2015年、宮崎での一軍合同自主トレだった。室内練習場で帰りを待っていると目の前に立ち止まり、阿部がこう言った。

「何だ、東スポ。マジメな話なら答えてやるよ」

 ただ、左手にはバットが握られ、今にも振り下ろさんばかりに阿部の左肩に乗せられていた。恐怖でしかなかった。質問内容の記憶は消し飛んだが、無事だったということは「マジメな話」を聞いたのだろう。

 そんな緊張感が少しほぐれたのは、あの“ダメ助っ人”だった。同年4月に途中加入したフランシスコだ。「メジャー通算48発」の触れ込みだったが、攻守ともに期待外れで出場はたった5試合。二軍でもロクに練習せず「家族を呼びたい」と球団に100万円の前借りを依頼したこともあった。

 いつしか誰からも見放されるようになってしまったが、最後まで気にかけていたのが阿部だった。当時の記者の“日課”はジャイアンツ球場で不良助っ人をチェックし、東京ドームにいる阿部に報告すること。「アイツ何してた?」「ベンチで寝てました」「ひでえな(笑い)」といった具合だったが、徐々にただ面白がっているわけではないことに気づかされた。

 ある時、阿部はジャイアンツ球場のロッカールームで練習をサボって月ごとに支払われる給料を計算しているフランシスコを目撃し「オメー、もらい過ぎだ! マジで給料ドロボーだぞ!!」と一喝。結果的に愛のムチも響かず、クビになると阿部が「寂しくなるなあ」。ポツリとつぶやいたのが印象的だった。

 救いようのないダメ男だってチームの一員。末端までの目配りと気配りを欠かさない視野の広さと、時流に合わせた指導法は今後の後進育成に大いに生かされるに違いない。