【楊枝秀基のワッショイ‼スポーツ見聞録】今年の1月中旬、知人から連絡が入った。「楊枝さん、ちょっと聞いてください。巨人の阿部選手が今年で引退しますよ」。またまた、そんなこと言って。タイミング的には十分あり得るが、まだキャンプ前。完全に疑い半分で聞いていた。だが、改めて引退するという根拠を問いただしてみると、何とも信ぴょう性が高かった。

「実は阿部選手が学生時代から親しい友人や、お世話になった方々をキャンプに招待してるそうなんです。それも一人や二人じゃない。『今までお世話になったから見にきてほしい』ってね。これは現役最後のキャンプに招待して恩返ししたいという意味しかないですよね」

 状況証拠としては引退と判定してもいいだろう。ただ、こんなまた聞きの不確定情報を、すぐさま記事にできるわけがない。そう思い、今季の阿部の活躍を見守っていたが、24日に引退が発表された。

 入団2年目、阿部自身初の優勝となった2002年のリーグVは原監督第1次政権の初年度だった。工藤、桑田、上原、高橋尚らの実力派投手陣にもまれリードに苦心した。このシーズン、チームトップの17勝を挙げた上原は「僕は慎之助の成長がホンマにうれしい。1年目の去年と違って、キャッチャーとしてめっちゃ成長してくれた。赤ちゃんから急に小学生になった感じ」と後輩の急成長を喜んだ。

 巨人の主力らしからぬ愛嬌たっぷりのルックスも印象的だった。甲子園では特によくイジられた。練習中、外野スタンドから「阿部くん、君の顔は巨人顔やない。阪神顔やからFAで阪神に来なさい」とスカウトされたこともあった。

 別の日には「阿部ぇ~、阿部ぇ~、おい! 阿部ぇ~」としつこく大声で呼ばれ、仕方なく振り返ると「原監督! 阿部が練習中によそ見してまっせ~」と告げ口されたりもした。G党はもちろん、虎党からも愛されたスラッガー。いつの日か巨人・阿部監督と甲子園のヤジの対決にも立ち会ってみたい。