自ら“起爆スイッチ”を押したということか…。今季限りでの引退を決断した巨人・阿部慎之助捕手(40)が24日、現役最後の阪神戦(甲子園)の9回に代打で登場。両軍ファンから大歓声を浴びたが、前夜に本人から直接幕引きを告げられた選手たちは大ショック。その一方で、ナインは日本一奪還へ結束を強めており、阿部引退がチームに追い風を吹かせそうだ。

 甲子園ラストマッチは豪快な空振り三振に終わった。藤川とは全球直球勝負。名捕手の最後の雄姿を焼き付けた両軍ファンから「慎之助」コールが湧き起こり、阿部は深々と頭を下げた。「球場全体でコールしてくれて感激です」。聖地を後にする背番号10からは感謝の言葉しか出てこなかった。

 チームに引退を明かしたのは前日23日のヤクルト戦後。阿部は神宮球場のクラブハウスで「今年でユニホームを脱ぐことになりました」と切り出すと10秒以上も沈黙…。「最高の仲間、指導者に出会えて本当に感謝しています。今年で野球選手としては終わりますけど、まだ野球人生は死ぬまで終わらないと思います」と続け、原監督も隣で深くうなずいた。

 しかし、ゴールはまだ先だ。「これからみんなもっと大事なゲームがあるので、僕もその一員として最後まで必死で頑張るので、みなさんも一緒に日本一になって僕の有終の美を飾らせてください。19年間、ありがとうございました」と結んだ。

 ナインは寂しさを隠し切れない。阿部から主将を引き継いだ坂本勇は「何回も阿部さんに助けてもらっている。巨人軍の伝統、チームの勝ちに対する執念。巨人がこういうふうに伝統を受け継がれてきたんだなと教えてもらったのは阿部さんです」。新時代の4番・岡本も「ロッカーも隣でポジションも(一塁で)かぶってましたし、4番になった時に『みんなが見てるからな』といろいろ教えてもらいました」としんみりだった。

 阿部の引退劇は球団サイドにとって寝耳に水だったようだ。大塚球団副代表編成担当によれば、本人から報告を受けたのは23日午前9時ごろだったといい「CS、日本シリーズが終わるまで、こっちから動くつもりはなかった」と明かした。

 チーム内からは「阿部さんが引退するという劇薬を持ち込めば、チームはもっと一つにまとまる。監督が『途上』と言うように強いチームではない。日本一を取り返すために、自分の引退も起爆剤にする狙いもあったのかもしれない」との見方も出ている。

 昨季までリーグ3連覇を成し遂げた広島では2018年に新井貴浩が引退を発表し、CS突破、日本シリーズ進出へ大きな力となった。背番号10の引退がチームにさらなる追い風を吹かせる可能性は十分ある。

 坂本勇は「(阿部と)一試合でも長くプレーできるように。もう一回みんなで銀座でパレードするという新しい目標ができた」と語ったが、これはチームの総意だろう。残された時間は決して長くはない。阿部引退のショックを原動力に、原巨人は日本一へ突き進む。