常勝を義務づけられた伝統球団を再興させたのは「全権監督」として4年ぶりに復帰した原辰徳監督(61)だった。必勝の十字架を背負いながら重圧をハネのけた指揮官の“達人技”は切り替えの早さ。どんな時でも平常心を心掛けるが、そんな「永遠の若大将」でさえも、実は毎晩のように襲いかかる意外な“悩み”と闘っていた――。

 21日のDeNA戦(横浜)で優勝を決めると、“鬼将”の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。指揮官として8度目のリーグ制覇。現役時代の背番号と同じ8度宙を舞い「非常に新鮮ですねえ。それと年をとると、涙腺がちょっと弱くなるのかもしれませんね…」と照れ笑い。「すべての固定観念というものを捨てて、どうやったら強くなるか。どういうチームをつくれば強くなるんだ、勝てるんだと。その一点に集中して(昨年の)秋からやってきました」と振り返った。

 チーム再建へ、球団から編成面にまで及ぶ全権を託されたのが原監督だった。契約は3年ながら、1年目から求められたのは結果。つまりは「優勝」だ。そのプレッシャーたるや、計り知れぬものがあったはずだ。

 史上13人目となる監督通算1000勝を達成した熟練指揮官といえど、日々の内容や結果によって多少の感情の起伏はある。しかし、いかなるネガティブ要素も翌日まで引きずらないのが原監督の“らしさ”だ。試合がどんなに長引いても悔しい負け方をしても、翌朝にはいつものカラッとした表情で姿を見せる。その切り替えの早さは超人的だ。

「たとえば遠征先で負けた試合後のバスの中は、それは“お通夜”ですよ。監督もカッカしていますから、誰も口を開ける雰囲気ではありません。ですが、数十分で宿舎に着いてバスを降りるころにはもう平常心。その後、夕食会場で選手と会っても、込み入った野球の話をすることはありません。本当に切り替えの達人ですよ」(チーム関係者)

 勝負である以上、勝つ時もあれば負ける時もある。恩師である亡き父・貢氏の「毒をも栄養にする」を地で行く指揮官は、成功の秘訣を「切り替えること」と語る。しかし、頭では理解はできても実践するのは簡単ではない。実際、原監督はどうやっているのか?

「消化にいいものを食べて、おいしいお酒をクッと飲んで寝ればいいんだよ。それで、引きずることはない」

 ぐっすり眠って気分爽快。新たな気持ちで翌日を迎えるように心掛けているそうだが…。「永遠の若大将」と呼ばれた原監督も還暦を過ぎ、7月22日には61歳を迎えた。そのためこんな“悩み”とも闘っていた。

「夜中に起きちゃうわけよ。もう“オシメ”でもするか!(笑い)」

 熟睡するためにオムツ着用まで検討したこともあったという。そんなことを笑って明かせるところも、原監督の“らしさ”なのだろう。

「このチームはまだまだ強くなる。同時に物足りなさはあるチームです。しかし、チームワークというか一つになるというものは、今までにない素晴らしいチームだと思います」(原監督)。戦いはまだ続く。まずはCS突破。そして7年ぶりの日本一奪回へと突き進む。