ソフトバンクが12日の西武戦(メットライフ)に3―2で勝ち、優勝マジック「12」を点灯させた。先発の千賀滉大(26)が、8回4安打1失点の力投で13勝目をマーク。前回登板で令和初のノーヒッターとなった力をいかんなく発揮した。それでも2週間前の天王山では打ち込まれ、チーム内では屈辱的な言葉もささやかれていた。そこから見事な復権を果たした千賀が、エースの信頼を取り戻した。

 圧巻のマウンドだった。0―0の7回一死二、三塁のピンチ。伝家の宝刀フォークの連投で栗山、外崎を2者連続の空振り三振に斬った。「あの場面は外野フライでも1点だったし、先に点をやるわけにはいかなかった。三振を狙って取れてよかった」。ピンチで三振を奪う真骨頂の投球。工藤監督も「すごかった。あそこで切り抜けたから(2得点した8回の)チャンスが来た。なかなかできることじゃない。大したもんです」とうなった。

 9月に入って訪れたエースの覚醒。千賀の意地があった。「今年はそういう(エースの)立ち位置までたどり着かないといけない」。そう決意して臨んだが、なかなか壁を乗り越えられなかった。口癖のように「エースというのは、周りに認められて初めてついてくるもの」と話していたが、先月30日の西武との首位攻防第1ラウンドは、信頼が失墜したマウンドだった。

 同点の7回に決勝2ランを浴びて初戦を落とすと、チームはカード負け越し。チーム内からは「ウチにはエースがいなかった」「(歴代エースの)斉藤和巳や杉内俊哉にはまだなれなかった」との失意の声が漏れた。

 そこから2週間。エースと認められる投球を結果で示すしかなかった。6日のロッテ戦でノーヒットノーランを達成。「何かをつかんだのかな」と工藤監督も右腕の見違える投球に安堵した。そして、エースとしての真の実力が試されたこの日の雪辱戦で西武打線を圧倒した。

 試合後、メットライフドームの長い階段を上がるチーム関係者が口を揃えた。「千賀じゃなければ勝てなかった。成長してくれた」。斉藤、杉内、和田毅らかつてエースと呼ばれた投手とだぶる姿だった。

 敗れれば相手にマジックがともる試合で“エースのお仕事”を完遂。鷹のエースの看板が、ようやく輝きだした。