ソフトバンクの千賀滉大投手(26)が6日のロッテ戦(ヤフオクドーム)でプロ野球80人目(91度目)のノーヒットノーランを達成した。育成ドラフト出身では初で、球団では前身の南海・別所昭(のちの毅彦)以来76年ぶり2人目の快挙。4試合ぶりの白星となる12勝目を挙げ、自身初の200奪三振もクリアした。3連敗で信頼が揺らいだ1か月、エースは人知れず苦しんだ。苦境から大偉業達成の裏には、弱気になる自身を奮い立たせた“ある儀式”があった。

 育成入団から球界を代表する剛腕に成長した千賀が、金字塔を打ち立てた。西武とのシ烈なV争いを演じる中、迎えたロッテ戦。チームが今季15敗を喫している天敵相手に、令和初のノーヒットノーランを達成してみせた。

 許した走者は四死球の4人のみ。最後の打者・井上から代名詞の「お化けフォーク」で12個目の三振を奪うと力強くグラブを叩いて喜んだ。毎回奪三振でのノーヒッターは史上初。2―0の完封勝ちでチームを5連勝に導く快勝だ。

 流れを止められない重要なゲームだった。試合前練習では、当日先発の投手としては超異例とも言える王球団会長からの激励を受けた。1ゲーム差で2位西武が猛追する中、結果がついてこないエースへの親心を理解し、闘志に火がついた。

 マウンドで理想の姿を体現した。終盤の8回にこの日最速の159キロを計測。最後まで気迫満点だった。ベンチの通路では、工藤監督が自然と道を譲った。信頼を取り戻す133球。「3連敗という最近の(ふがいない)成績が、僕を最後までマウンドに立たせてくれた」

 普段は冗舌で明るい性格の26歳。この1か月は努めて明るく振る舞うようにしていた。西武、ロッテ、西武と鍵を握るライバルとの直接対決で黒星が続き、天真らんまんな言動も笑顔も自然と減った。

「真のエース」になりきれない自分が歯がゆく、弱気になった。そんな自分を振り払いたいと、ある行動に出た。8月末のこと。「僕、悟空になりたいんですよ。だから、これは悟空色」。髪の毛を人気漫画「ドラゴンボール」の主人公・孫悟空(スーパーサイヤ人ver)をイメージした鮮やかな金色に染めた。「今のレベルじゃ、名もないキャラクターだから」。「主役を張れる選手=エース」に早くなりたいとの思いを込めた。

 実は髪をきれいな金色に染め上げるには時間を要す。「最初は黒と青だけど、1週間くらいたつと色が抜けて金色になるんすよ」。2日前に染め直し、この日はまだ「青い」姿だった。

 今後の登板は133球を投じた肉体の状態次第だが、来週は西武との直接対決(11、12日=メットライフ)が控える。

 育成出身選手として初のノーヒットノーランを成し遂げた千賀は「僕はまだ発展途中ですから」と言う。漫画のようなサクセスストーリーは、この先も続く。

【同期で育成出身の甲斐】(決勝打と好リードに)今日は千賀のために何とかしてやろうと思っていた。100球を超えてから159キロ。気持ちがこもっていた。僕の力というより千賀の力です。

【王球団会長】ここのところ自分の役目を果たせていなかったからね。それは本人が一番分かっていたと思う。本当にチームにとって大きな勝利。

【工藤監督】立派です。ここ何試合か苦しんで、いろんな思いで過ごして、今日にかける思いは強かったと思う。自分を悟ったように投げている感じがした。

【後藤球団社長】すごい潜在能力。メジャー関係者も見に来ていたみたいですね(笑い)。初めてノーヒットノーランを達成するところを見ました。