エースが完全復活の大偉業だ。首位ソフトバンクは6日のロッテ戦(ヤフオクドーム)に2—0で勝ち、5連勝を飾った。千賀滉大投手(26)が史上80人目のノーヒットノーランを達成した。育成ドラフト出身の選手では初めて。自身初の200奪三振もマークして1か月ぶりの12勝目に花を添えた。波に乗れなかったエースがうっぷんを晴らす快投。優勝へラストスパートをかける勝利の裏には、王球団会長によるエースへの異例の激励があった。

 最後の打者をフォークで空を切らせ、12個目の三振を奪うと、力強くグラブを叩いた。

 試合中、ベンチですれ違う工藤監督が道を譲るほどの迫力を身にまとっていた。千賀が気迫を前面に出した投球で、今季すでに15敗を喫してチームが大の苦手とするロッテを完全に封じた。

 初回から4イニング連続の三者凡退に打ち取ると、最後まで圧巻の無安打投球。6回にはこの日7つ目の三振を奪って、自身初の200奪三振の大台に乗せた。闘志がボールに乗り移ったような、これぞエースの快投。味方の援護は相手中堅手・マーティンのお粗末な2つの落球で奪った2点だけだったが、この日の右腕には十分すぎる得点だった。

 先月30日の西武との首位攻防戦(メットライフ)で痛恨の敗戦。自身3連敗を喫して、この1週間は本来の明るさが影を潜めた。そんなエースの姿は、チームの誰もが気づいていた。

 試合前練習で異例の光景があった。あまりグラウンドに姿を現さない王球団会長が練習を視察。これまでなら先発登板当日の投手に声をかけることは一切なかった。だが、この日、王会長は千賀を見つけると言葉をかけた。2人にしか分からないやり取りだった。

 王会長の気遣いが大偉業の援護射撃となったのかもしれない。その光景を近くで見ていたソフトバンク前ヘッドコーチで、この日テレビ解説で訪れていた達川光男氏は言う。「さすがじゃのう、王会長は。嗅覚があるよ。このタイミングでグラウンドに出てきて、直接声をかけるんやから。このチームは千賀が勝たんと始まらんし、千賀というピースがはまらんと優勝できん。あれで千賀もスイッチが入ったはずよ。良くない時に、王会長みたいな人に気にかけてもらっているというだけで選手は全然気持ちの持ちよう、モチベーションが違うんよ」。8月末に5連敗を喫して西武の猛追を受ける要因となったのは、エースの不振が無縁ではなかった。その負い目のある千賀に異例の激励を行った王会長。ソフトバンクが優勝するための、王流の一手だった。

 千賀はお立ち台で「自分どうこうじゃないが、チームに勝ちを持ってこれていなかったのは事実。そこは悔しかった。『しっかり投げよう』とそれだけを考えていたのがよかった」とすがすがしい表情で話した。

 V奪回へエースの大偉業がチームを加速させる。