【広瀬真徳 球界こぼれ話】スポーツ選手の何げない言動は時として予測できない事態を巻き起こすことがある。先日の全英女子オープンでは、優勝した渋野日向子(20)がラウンド中に食べていた駄菓子「タラタラしてんじゃね~よ」が話題になった。本人が意図的に宣伝しようとしたわけではないにもかかわらず、全英での快挙もあって製造元には問い合わせが殺到。現在でも駄菓子店やスーパーでは品薄状態だという。

 今季、NBA入りを果たした八村塁(21)がチームメートにお裾分けしたことで一躍人気になった北陸限定の菓子「白えびビーバー」。2018年平昌冬季五輪での女子カーリングチームによる「もぐもぐタイム」なども同じ。大舞台で活躍する選手の一挙手一投足はどこで何が注目されるか分からない。

 その事例の一つとして個人的に印象に残っているのがレッドソックス時代の松坂大輔(38=現中日)のひと言。ある日の取材で体調管理について問われた際に「正露丸を持ち歩いているから大丈夫」と発言した。これをきっかけに、日本の製薬会社から段ボール1箱分(1万粒以上)の商品が空輸されてきたのだ。

 当時松坂はメジャー1年目。日米での注目度が高く、何かの拍子で商品名を発するたびに関連商品が送られてくることはあった。だが、この時ばかりはさすがに本人も苦笑い。「うれしいですけど、まさかこれだけの量を送っていただけるとは…。これからは安易に商品名を口に出さない方がいいかもしれませんね」と複雑な表情を浮かべていた。

 もっとも話はこれで終わらない。実はこの後、ある問題がチーム内で起きていた。大量の正露丸がロッカー入り口に置かれたため、正露丸特有の薬品臭が周囲に拡散。“異臭”を感知したメジャー選手の大半が試合前にロッカーから退散してしまったのだ。このため、残った松坂や通訳、広報らが他選手に正露丸の効能や特性の説明に追われたことはあまり知られていない。

 人気スポーツ選手の発言力は一般人の比ではない。ましてや今はネット社会。何か言えば瞬時に炎上することもあり、プロ野球選手を含めた多くのアスリートは自らの発言に慎重になりつつある。ただ、思わぬひと言や動きが選手の人生を好転させたり、スポーツの楽しさを周囲に広める効果もある。賛否両論あるだろうが、選手たちにはこれからも萎縮せず個々の魅力を積極的に発信してもらいたい。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。