【大下剛史 熱血球論】いよいよ首位固めとなるか。巨人が14日の広島戦(マツダ)を7―1で制し、2勝1敗で開幕カード以来となる勝ち越しを決めた。これで2位DeNAと4ゲーム差、3位追走の広島とも4・5差に広げた。優勝の行方をも左右する真夏の大一番。勝負どころの3連戦に熱視線を送った本紙専属評論家の大下剛史氏が挙げたV奪回のキーマンは――。

 恐れ入った。さすがは日本のナンバーワン投手だ。菅野の立ち居振る舞いに、思わず感動すら覚えた。目を見張ったのは4回に1―1に追い付かれた場面だ。

 表の攻撃で小林の先制打が飛び出した直後のイニング。チームに流れを呼び込むためにも、菅野としては絶対に無失点で切り抜けたかったはず。しかし、味方に痛いミスが出た。二塁手の若林が松山のライナーをグラブに収め切れず、あっさり1点を失った。記録は適時打だったが、失策同然のプレー。若林はマウンドに立つ菅野のもとへ謝罪に向かった。

 これはこれで勇気のいる行動だが、菅野の対応もまた実に素晴らしかった。「気にするな。俺が抑えてやるから」と言わんばかりにグラブで若林をポンと叩き、見事な見逃し三振で後続を断つ。どこか昭和の香りを残したエースの自覚と自信に満ちた光景は、久しく野球界では見られなかったものだ。

 ただでさえ今季の菅野は腰に不安を抱え、一時は離脱もした。ここまでは本来の力からすれば半分も仕事をしておらず、勝ち頭の山口に頼りっぱなしの状態だ。これからの時期を戦い抜く上では投手に尽きる。山口はすでに出来過ぎなぐらい働いた。巨人が5年ぶりのリーグ優勝を果たせるかどうかの鍵を握るのは菅野をおいて他にいない。チームメートと心から優勝の喜びを分かち合えるかどうかは、この先の投球にかかっている。菅野にもその自覚はあるはずだ。

 野手に関して言えば、今年の巨人は決して盤石ではなかった。丸が加わったことで確かに厚みは増したが、レギュラーと控えの差が大きく、不安な要素も多分にある。それを補っているのが原監督の手腕で、今カードでも冷静に状況を見極め、勝負手として2試合で阿部を「5番・一塁」で先発起用した。首脳陣と選手の信頼関係は結果が伴ってこそ深まるもの。阿部に限らず選手たちは起用の意図を理解し、士気も高まっているように見受けられる。

 この日の菅野の投球を見る限り、完全復活の時は近い。あとは本人が継続できるかどうか。今後はライバルチームもエースを酷使してくる。もちろん油断はできないが、菅野が本来の姿を取り戻したとき、巨人の優勝がグッと近づいてくる。