史上69人目サイクル安打の阪神・梅野 開眼の軌跡

2019年04月10日 16時30分

サイクル安打を達成した梅野

【楊枝秀基のワッショイ!!スポーツ見聞録】阪神が本拠地開幕となる9日のDeNA戦(甲子園)を12―8の逆転勝ちで制し、勝率5割に復帰した。5点差をはね返しての勝利に矢野燿大監督(50)は「ファンの皆さんも喜んでもらえる試合だと思う。選手があきらめないでやってくれた結果」と興奮状態で振り返ったが、この日のヒーローは何といっても史上69人目のサイクル安打を達成した梅野隆太郎捕手(27)。左足薬指を骨折しながら偉業を達成した“新・鉄人”を、親交の深い楊枝秀基氏がたたえた。

 笑顔が輝いていた。梅野がお立ち台から「明日も~」と投げかけると、満員のスタンドから「勝つバイ!!」と約束通りのリアクション。ファンを楽しませるという矢野監督の意図を十分にくみとり、九州男児全開のパフォーマンスを見事に成功させた。

 プロ野球史上69人目となるサイクル安打を達成するなど、攻守にわたる活躍で甲子園開幕勝利に貢献。2日に負った左足薬指骨折をおしての快挙に甲子園は最高に盛り上がった。選手冥利に尽きる最高の舞台。これはひとえに、梅野への野球の神様からのねぎらいだと考えたい。

 2015年の宜野座キャンプ。ルーキーイヤーだった14年にチームの捕手最多の92試合に出場し7本塁打を記録。打てる捕手として脚光を浴び、梅野は入団2年目を迎えていた。将来を嘱望され希望で心があふれているはずだった。それなのに、ストレスに満ちた言葉がこぼれてきたことに耳を疑った。

「冗談でもそんなふうに言われたくないんですよ。僕はキャッチャーとして本当にうまくなりたいと思って、本気で野球に取り組んでるんです。そういう言葉で心が乱れてしまう、未熟な自分にも腹が立ちます」

 一体、何があったのか。梅野に問うと状況が見えてきた。

 キャンプ中の捕手は多忙だ。自らの打撃練習や野手との連係などの守備練習はもちろん、投手の練習時間に合わせてブルペン、グラウンドを行ったり来たり。まだ若手で余裕のない中、打撃練習中に矢野作戦兼バッテリーコーチ(現監督)から投げかけられた言葉に若き日の梅野が心を痛めたのだ。

「おおっ、梅野。バット持ったら表情変わるねえ。バット握ったら急に生き生きしてるやないか」

 もちろん、当時の矢野コーチの言葉に悪意などない。捕手として成長しようともがいてる若手をおもんぱかって、ハッパを掛けた。それ以上でも以下でもない。それでも、必死でレギュラーを目指す若き日の梅野には、このジョークが通じなかった。

「絶対にピッチャーから信頼されるキャッチャーになって見返してやります」。決意を一層強くした。だが、思いがすぐに実を結ぶほどプロは甘くなかった。

 15年は56試合、16年は37試合と試合出場数は減少。そんな中、親交のあるチームスタッフからは「悔しいから見返したい気持ちも大事だけど、その人がその立場でどういう気持ちで言葉を発したのか。それを客観的に感じ取る力も必要なんじゃないか。現役のかわいい後輩が憎いコーチなんていないよ。人として周りが見えないと、捕手としても成長できない」と助言を受けた。多くの支えを受けるうち、聞く耳が備わっていった。周囲からの助言がスッとふに落ちるようになった。

 17年には初めて大台を超える112試合に出場。そのオフには選手会長に就任した。「周囲の見る目も変わってきますから。梅野がいるから大丈夫と思われるような存在になりたい。選手としてだけでなく、人として信頼される存在にならないと」。大人になった梅野は開眼した。

 昨季は132試合に出場しレギュラー奪取。ゴールデン・グラブ賞にも輝いた。自慢の強肩でリーグ2位の盗塁阻止率を誇り「梅ちゃんバズーカ」の代名詞も定着した。ただ、まだ足りないものもある。チームが最下位では満足できないのは当然だ。

 もう、矢野コーチを「見返す」のではない。05年以来のリーグ優勝を正捕手としてリードし、矢野監督に「恩返し」することが梅野の目標に他ならない。