巨人がまた一人、チームの“顔”を失った。球団は7日、FA権を行使した丸佳浩外野手(29)の獲得に伴う人的補償として、本紙昨報通り長野久義外野手(34)の広島移籍を発表した。内海に続く生え抜きスターの電撃流出にナインは絶句。衝撃は広がっている。熱烈なG党は国内FA権を持つ長野に早くもカムバックコールの嵐だが、選手として、もしくは指導者としての巨人復帰はあるのかないのか。その可能性を探った。

 年明けの球界はサプライズで幕を開けた。年をまたいで注目されていた人的補償問題の答えは、まさかの長野。広島からの連絡を受け、7日午前中に本人へ通達された。

 両球団から正式発表されると、長野は球団を通じ「3連覇している強い広島カープに選んでいただけたことは選手冥利に尽きます」とコメント。律義な男らしく球団内外に感謝を述べ「ジャイアンツと対戦することを楽しみにしています」と前向きな言葉で結んだ。

 一方、編成本部長を兼ねる石井球団社長は「チーム変化の時期とはいえ、内海選手に続き、チームの顔として活躍してくれた長野選手を送り出すのは、断腸の思いです」。ただ内海の際のように、将来的な復帰を望むコメントは差し控えた。

 広島サイドは今回の選択に際し「たとえ1年で巨人へ戻ってもいい」との覚悟で指名したという。確かに長野はFA権を保持しており、巨人が獲得に乗り出せばルール上は来オフにも復帰は可能。ただ、その可能性は限りなく低いだろう。理由は長野の性格にある。

 過去2度のドラフト指名拒否からワガママと誤解されがちだが、自分のことは常にそっちのけなのが長野という男だ。推定2億3000万円の新年俸は広島ではAランク相当。自分がFA復帰を果たせば、再び仲間が人的補償問題に揺れる。広島が金銭補償を選ぶ確証が得られるか、自身の年俸がCランク以下に下がらない限り、FA権は行使しないだろう。選手としては骨をうずめる覚悟で赤いユニホームに袖を通すはずだ。

 では指導者としての復帰はあるか。この点、内海は「戻ってくる」と断言できる。だが長野に関しては球界の物差しでは測れない。過去に本紙が引退後の指導者転身の可能性をぶつけた際は「できないです」と即答し「だって、自分がどう打っているかもわからないんで。人に教えるなんて絶対にできないですよ」と真顔で話した。ちなみに当時は「国際スカウトという仕事には興味があるんです」としていた。またある時は実業家の夢を語ったこともある。
 もう巨人のユニホーム姿は見られないかもしれない――。長野の人柄を知るからこそ、チームメートの声は沈む。長年、外野の定位置を争った亀井も「やっぱり寂しい」とショックを隠せなかった。

 阿部が主将を退いて以来、年下の坂本勇を支え、チームを陰でまとめてきたのが長野だった。内海の送別会を企画していることを明かした際には「僕も“送られる側”になるかもしれませんけどね」といたずらっぽくほほ笑んでいたのだが…。

 グラウンドを離れても巨人の顔だった長野。新年早々の衝撃に揺れたのは球界だけではない。銀座、六本木、西麻布、青山、白金…。球界一の“夜王”流出には、背番号7が庭とした首都の街々からも悲鳴が上がっている。並の選手ではこうも波紋は広がらない。

 大塚球団副代表は「(広島は)若手に切り替えているから、まさかベテランを獲るとは…。ショックです」と話し、本人通達の際には「すごい思いでウチに入ったのに申し訳ない」と謝罪したことを明かしたが…。巨人は一選手の枠を超えた大きな男を失ってしまった。