パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第5戦(メットライフ)が21日行われ、2位のソフトバンクが1位の西武を6―5で下し、4勝2敗(アドバンテージを含む)で2年連続の日本シリーズ進出を決めた。シーズンで辛酸をなめ続けた宿敵に、どうして雪辱できたのか。そこには「秋山殺し」をはじめとする、工藤公康監督(55)の数々の“短期決戦用裏采配”があった。

 守護神・森が最後の打者を二ゴロに打ち取り勝利が決まった瞬間、工藤監督は静かにベンチから腰を上げ、コーチ、スタッフと固い握手を交わした。宿敵には9月の天王山6試合(メットライフ)で1勝5敗と惨敗。9月30日にリーグ連覇の可能性がついえると、翌日からCSでの打倒西武を見据えてきた。

 準備を怠らなかった。工藤監督の懐刀である森作戦兼バッテリーコーチ補佐は「西武打線のキーマンは秋山。まずは秋山を抑える。監督からコーチ、スコアラー陣に指示があった。みんなで『秋山を塁に出さない』ことを徹底的に研究した。イメージは監督が関川を抑えた時のイメージだった」と明かす。

 工藤監督がエースとしてダイエー(当時)を日本一に導いた1999年の中日との日本シリーズ。相手の攻撃の起点が1番・関川浩一(現ソフトバンク三軍監督)であると見た工藤は、関川を徹底研究。初戦で4打数無安打に封じるばかりか、シリーズを通して封じ込め、中日打線を機能不全に追い込んだ。

 あれから19年。来季以降の戦いもあるため詳細は明かせないというが、ホークス首脳陣、スコアラー陣は秋山の弱点を多角的に分析。「四球も含めて、とにかく秋山を塁に出さない」(森コーチ)ための攻略法をチームで共有。結果、秋山を20打数3安打に封じた。森コーチは「ウチのバッテリーが狙い通りに秋山を攻め切ることができた。それができたから、次は(4番)山川、(6番)中村と抑えられたし、相手打線を分断できた」と振り返った。

 それだけではない。選手起用では調子の上がらない松田宣を、第3戦のスタメンから外した。ファイナルステージから緊急昇格させた主将の内川は第3戦、第4戦でホークス加入後は初となる7番起用。さらに、第5戦は松田宣、内川をベンチに置き、陰ながらチームを支えてきたベテランの長谷川勇を送り出した。

 また、シーズン中は左投手専門だった西田が、短期決戦突破に不可欠な“ラッキーボーイ”であると見るや、左右関係なく抜てき。次から次に勝負手を繰り出した。

 一方、先発投手は最低5イニングとされる「責任投球回」を今ステージでは3イニングに設定。結果、相手打者は目慣れする暇もなく第2先発の武田、石川ら球威ある中継ぎ陣に屈した。シーズンでは四球連発からの本塁打で苦汁をなめ続けた投手陣には「ソロ(本塁打)はOK。打たれるのを怖がらずに勝負しよう」の意識改革を行った。

 現役時代にはリーグ優勝14回、日本一11回を達成し、監督としても2度の日本一を経験。「短期決戦の鬼」ぶりを発揮した工藤監督は「西武にチャレンジして『何とか勝ちたい』。そういう気持ちでここまでやってきた。今はホッとしている。私だけではなく、コーチのみんなと選手のみんなと勝つために最善のことをやってきた。それができた」とミッションの完遂を喜んだ。

 球団初の「下克上日本一」へ次なる戦いは、セ覇者・広島が待つ日本シリーズ。鷹の進撃はまだまだ続く。