崖っ縁からの逆王手だ。3位・日本ハムが14日、2位・ソフトバンクとのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ第2戦(ヤフオクドーム)に4―2で勝利し、対戦成績を1勝1敗とした。8回に大田泰示外野手(28)が殊勲の勝ち越し打を放つなど2点を奪って突き放した。巨人時代から大田をそばで見ていた本紙専属評論家の伊原春樹氏は「日本ハムでは雑な部分をうまく共有させながら大変身を遂げた」と評価。一方、この日は先発のニック・マルティネス投手(28)の好投も光った。

【伊原春樹 新鬼の手帳】ノビノビやっているな――。大田のプレーを見ていると、つくづくそう思う。この大事な試合でも、そうだった。8回に二死から二塁打を放った西川を得点圏に置いて迎えた第4打席。1ボールからマウンドの加治屋が投じた外角フォークを2球連続で空振りしたときは正直に言えば「相変わらず雑だな」と感じた。だが実は、ここからが変化を遂げた彼の真骨頂だった。

 こういうケースにおいて2年前まで在籍していた巨人ならば、おそらく雑な追い込まれ方をしたまま萎縮して結局凡退していただろう。しかし今の日本ハムで大田はたとえ雑なところが顔をのぞかせたとしても、気持ちを切り替えて狙い球にきっちりと対応する力を身につけている。だから、その後もフルカウントまで粘り続け、7球目の甘く高めに浮いた直球を狙いすまして勝ち越しとなる左越えの適時二塁打を放った。

 もともと大田は冷静になっていれば、直球を待ちながらうまく対応できる天性の力を持っている好打者だ。不器用そうだが、身体能力は高い。巨人では何かと結果を出さなければという重圧にさいなまれていたが、日本ハムでチャンスを与えられ続けたことによってその才能が開花した。大田自身も雑な部分を受け入れて共有することを意識付け、いい意味でプレッシャーなど感じることなく開き直れているのだろう。だから思い切って勝負できるようになり、今や“恐怖の2番”として定着できているのだ。

 こういう大田のようなタイプの打者は短期決戦で相手にとって厄介だ。一見雑になっているようでも完全にペースを乱すわけではないから、何をされるか分からない怖さがある。ちなみに4回先頭の第2打席では失策から出塁すると、続く打席の近藤が空振り三振に倒れながらも、ガムシャラに二塁盗塁を決めた。ここでチーム2点目につながる走力も誇示し、相手捕手の強肩・甲斐を露骨に悔しがらせたのは見ていて印象に残るシーンでもあった。

 一方の敗れたソフトバンクは、その甲斐の「甘さ」が浮き彫りになってしまった。8回の大田に対する攻めではフォークが有効的だったにもかかわらず、バッテリーが6、7球目の勝負球として選択したのはいずれも直球。甲斐はこの日の加治屋の直球が精度、制球ともにいまひとつであることを感じ、フォークを要求していたもののマウンドから首を振られてアッサリとのんでしまった。

 案の定、高めに浮いた直球を大田に痛打されたのだから、そこは反省しなければいけない。「間」を取ってマウンドで加治屋に伝える手段も考慮すべきであったと考える。

 最後に7番・松田の打撃が大田と対照的に「雑過ぎ」なのは気がかりだ。公式戦は今季30本超えで健在ぶりを示しているように思えるが、打率は2割5分弱。その荒さが見え隠れしているのか、CSでは無安打だ。鷹としてはベテランの元気印が欲しいところではある。(本紙専属評論家)