【異業種で輝く元プロ野球選手】「実業家」と「野球指導者」の二刀流。そんな人生を送る元プロ左腕がいる。近鉄、巨人で活躍した真木将樹さん(42)。現在、大阪で洗剤を中心とした通信販売事業を行いながら、法政大学野球部の助監督として後進の指導にあたっている。

「母校の指導は2016年から。当初は投手コーチで今年から助監督になりました。今は指導と事業の両立ができていますが…。ここに至るまでは苦労しましたよ」

 真木さんは法大時代に六大学野球で高橋由伸(現巨人監督)や川上憲伸(元中日=現野球評論家)らとしのぎを削り、97年ドラフト1位で近鉄に入団。1年目から先発陣の一角を担う活躍で6勝をマークした。だが、その後は成績不振もあり04年に引退。以後はスポーツイベント、グッズ関連会社の社員へと転身、第2の人生を歩み始めた。

 社会の厳しさを実感したのはその2年後。独立が発端だった。

「06年3月にサラリーマン時代に培った経験をもとに起業を決意しまして。球界人脈を生かしたグッズ会社を立ち上げました。最初はタイガース関連のグッズ企画や制作、06年末からは美容師をしていた知人からの要望もあり、ヘアケア製品の商品開発を手がけました。おかげさまでどちらもある程度は売れましたが、一方で請け負う仕事は単発ものばかり。継続性のある仕事がなかった。そのため、その後2年ぐらいは貯金を切り崩して会社を回す日々で。自分一人の会社でしたが悩みましたよ。会社運営の難しさを思い知らされました」

 安定的な収入を得られる事業はないのか。暗中模索の日々が続いた数年後、転機が訪れる。

「確か10年ごろだったと思います。ある日、プロを辞めて野球部の指導をされていた僕の先輩から『泥汚れって普通の洗剤では落ちない。楽に落ちる洗剤を作れないか』と頼まれたのです。当時自社で一般洗剤を販売していたので、私が開発できると思ったのでしょう。でも、先輩の要望は泥汚れ専門洗剤。そんなニッチなものは売れないと思ったので当初は軽いノリで始めました。それでも、改めて調査すると意外にも多くの野球関係者が泥汚れに苦労していることがわかりまして。それからです。本腰を入れて商品化に取り組んだのは」

 とはいえ、頑固な泥汚れを完璧に落とす洗剤など容易に作ることは不可能だ。そこで、付き合いのあった洗剤工場を何度も訪問。関係者に頭を下げ、新商品作りへの協力を募った。その結果、11年に泥汚れ専用洗剤「レギュラー」を開発。ネット販売を開始すると同時に、商品普及のため地元大阪を中心に中学硬式野球リーグにサンプル洗剤を無償提供した。この販促が功を奏し、初年度から予想外の人気に。売り上げも右肩上がりを記録した。7年たった今では通販や大手スポーツ店で年間計1万個以上が売れるヒット商品に成長。多くの野球関係者から重宝されている。

 苦労の末、事業を成功させた真木さん。自らが引退後の人生で苦しんだ分「野球界への恩返し」に力を注ぐという。その一環として、球界を去った選手の引退後を紹介するネットサイト「ドリームネクスト」を11年に開設。飲食店や自営業を営む元プロ選手を応援し続けている。

「最近は多忙でサイトを更新できていませんが、元プロ野球選手には社会に出てもファンや子供たちの憧れの存在でいてほしい。そのためにも応援は続けたい。もちろん母校の立て直しも忘れてはいません。何年も(六大学野球で)優勝から遠ざかっていますから。事業とともに頑張りたい」

 42歳でなお前に進む。元ドラ1左腕の挑戦に終わりはない。

 ☆まき・まさき 1976年、福岡県生まれ。東筑紫学園高から法大を経て97年ドラフト1位で近鉄入団。01年6月にトレードで巨人に移籍も02年に戦力外通告。03年にカナダ独立リーグ挑戦。04年に現役引退。06年に「アルク有限会社」設立。16年3月に法大野球部投手コーチに就任。18年1月に助監督就任。プロ通算成績は58試合11勝14敗、防御率4・71。身長180センチ。左投げ左打ち。