さまよえる盟主が霧中の決断を下した。巨人は3日、高橋由伸監督(43)の今季限りでの退任を電撃発表。山口寿一オーナー(61)は、在位3年間でいずれもリーグ優勝を逃したことを受けた指揮官の“引責辞任”の申し出を受理したことを明かした。ただ内情に鑑みれば、事実上の解任であるのは明白。後任監督の最右翼には原辰徳前監督(60)の名前が浮上しており、球団内は嵐の予感が漂っている。

 シーズン最終盤を迎えた巨人に衝撃が走った。チームが広島へ移動したこの日、都内の球団事務所に山口オーナーが報道陣を緊急招集。「高橋監督から責任を取って辞めたいという話がありました。3年間優勝から遠ざかっているので、その責任を取りたいというお話でした」と電撃的に公表した。

 由伸監督から辞任の申し入れがあったのは先週のこと。山口オーナーは直接会談の席でフロントを代表して補強面やバックアップ態勢の不十分さを謝罪したという。その上で今後はCS、日本シリーズ進出を決めた場合も、最後まで指揮を全うする意思を確認したが「責任感の強い監督。慰留というか、本人は決意が固かった」と3年契約3年目の幕引きを受け入れたことを明かした。

 そのオーナー発表から数時間後、移動先の広島市内で報道陣に対応した指揮官はすでに吹っ切れた表情だった。

「監督を引き受けた時点からチームの勝敗は監督が背負うと思ってやってきましたし、その思いはこの3年間、今も変わっていない。チームの成績が良くないというところで、監督として責任を取らなくちゃいけない。『責任を取って辞めます』ということを山口オーナーの方に直接伝えました」と話した。

 形式上は“辞任”。だが球団内の見解は“解任”で一致している。山口オーナーは先月のオーナー会議後に続投を要請する意思を示していた。だが、その一方では後任探しにも着手していた。その動きが由伸監督の耳に入ることも計算の上で、青年監督の決断を静かに待っていたのだった。

 確かに3年目を迎えた由伸政権の内情はズタボロだった。岡本、吉川尚ら若い芽の台頭という希望は示したものの、現場では意図の見えないベンチワークへのストレスも渦巻いていた。不可解な継投、偏った選手起用の連続に、選手間では首脳陣への不信感が増大。責任者である由伸監督の求心力も日に日に低下していた。球団が指揮官交代を検討すべき事態だったのは間違いない。山口オーナーは明言を避けたが、次期監督像については「難しい状況で引き受けてもらう。そうすると経験、実績は必要」と語った。後任はすでに原前監督の第3次政権実現が確実となっている。

 ただ巨人の時計の針はそれで前に進むのか。原前監督から由伸監督に託したこの3年間は「一体、何だったのか?」ということになる。

 由伸監督は平成の巨人を支えたスター選手でありながら旧来のどの派閥にも属さず、外圧に負けない芯があった。当初から球団主導の改革に理解を示し、まだ現役でやれる力を残しながら、バットを置いてあえて火中の栗を拾った。もちろん若さゆえの未熟な面もあったが、寂しいのはそんな青年監督の気概を買い、真剣に支え、育てようという姿勢が球団側に見られなかったことだ。

 昨季途中には慶大の先輩で後見人的立場だった堤前GMを更迭。フロントとのパイプ役となるべき後任の鹿取GMは、指揮官との対話を全く図ってこなかった。

 読売上層部による現場介入も日常茶飯事。村田ヘッド兼バッテリーコーチをはじめとするベテラン揃いのコーチ陣も一枚岩ではなく、一部は保身に走る者も現れるなど、今季のベンチは空中分解した状況だった。

 結局は自分たちフロントの手には負えなかったということか。再々登板となる原氏が得意とするのは、監督をピラミッド最上部に位置付けた現場主導のチーム運営。球団はわずか3年でフロント主導で進めてきたチーム再建を諦めたということになる。

 もはやCS進出争いどころではない。巨人は完全に動乱の時に突入した。