広島の新井貴浩内野手(41)が5日、マツダスタジアムでの阪神戦を前に記者会見し、今季限りでの現役引退を表明した。球団側に意向を伝えたのは8月上旬で強く慰留されたが、約1か月の“猶予期間”を経ても気持ちは変わらず、この日までに松田元オーナー(67)にも了承された。それにしても、なぜこの時期だったのか? あえてシーズン中の発表となったのは、誰からも愛された新井さんへの球団側の配慮でもあった。

 プロ20年目の大ベテランが一大決心を固めたのは「交流戦が終わったころ」。同世代の選手は捕手の石原ぐらいで、中心となっているのは一回り以上、年下の選手たち。「若手がすごく力をつけてきている。これから2年後、3年後、5年後のカープを考えたときに(引退するのは)今年がいいんじゃないかなと思った」

 球団に意向を最初に伝えたのは8月上旬。鈴木球団本部長からは「考え直せ。まだやめるな」と強く慰留されたという。さらに約1か月の再考期間を与えられたが、新井の決意が変わることはなかった。前日4日には松田オーナーへのあいさつも済ませ、ナイターで行われた阪神戦後にはともに汗水を流してきた選手や球団スタッフにも今季限りで身を引く考えを伝えた。

 ただ、チームは球団初のリーグ3連覇と34年ぶり日本一に向けて戦っている。新井自身にも引退表明はすべてが終わってからの方がいいのではないかとの思いはあった。それでもこのタイミングで発表に踏み切ったのは球団側の配慮で、鈴木本部長は「これだけ愛されたキャラクター。東京、神宮、名古屋と試合も残っているし(発表は)早い方がいいかなと。多くのファンに応援してもらえると思う」と説明。現時点で引退試合やセレモニーに関しては白紙ながら、同本部長は「残りの毎試合を引退試合のつもりで見てもらえたら」とも話した。

 今季は左ふくらはぎ痛で開幕二軍スタート。松山やバティスタに出場機会を譲ることも多く、主な働き場は代打で打撃成績は出場50試合で打率2割2分、4本塁打、20打点。スタメン出場は19試合にとどまっている。ただ、首脳陣も“空気”は察しているようで、起用法は従来通りながら、東出打撃コーチは「たまにスタメンもあるかも」。約1か月ぶりに先発出場した8月29日の巨人戦(東京ドーム)では吉川光から3ランを放つなど3安打3打点と大暴れしており、最後にひと花もふた花も咲かせる可能性は十分にある。

 かつてOBの黒田博樹氏(43)には、新井にきれいな引き際は似合わないとして「ボロボロになるまでやれ」と言われた。今もグラウンドでは元気な姿を見せているが、本人的にはすでにボロボロだった。「僕も41歳ですから。試合に出ていなくても、寝起きに体の節々が『あいたたた』なんてこともある。普通の41歳と変わりませんよ」。ファンの大声援を力に頑張ってきたが、結果で恩返しする機会が減っていることにもどかしさも感じていた。それだけに6日の阪神戦も含めた残り24試合は、新井にとってファンへの“恩返し行脚”にもなる。この日の試合でも、代打で出場した5回の打席で三振に倒れたが、ひときわ大きな声援が飛んだ。

 2014年オフに阪神から復帰した際は「カープのために少しでも力になりたい。力になれなければすぐにやめよう」と思ったが、4シーズンを過ごした上に2度のリーグ優勝も経験し「感謝しかない」。一軍にいる以上は戦力にならなければいけないとの思いもある。「本当の戦いは10月、11月。自分もチームの力になれるよう最後の最後までかわいい後輩たちと喜び合えるようにしたい」。ファンのため、ともに戦ってきた仲間たちのため、新井は最後の瞬間まで全力疾走する。