【上原浩治「中継ぎピッチャーズバイブル」Season2(44)】日米の夢舞台を経験したレジェンド右腕が語る“球宴の重み”とは――。巨人・上原浩治投手(43)が「マイナビオールスターゲーム2018」(7月13日=京セラ、14日=熊本)のファン投票セ・リーグ中継ぎ投手部門でトップ選出された。ただ11年ぶりの出場にも、その胸中は複雑。球宴の価値を巡る熱い思いを告白した。またメジャーで苦闘する後輩右腕へ向けては“上原節”で厳しくも温かいエールを送った。

 ぶっちぎりのトップ選出にも上原の顔に笑みは浮かばなかった。球宴ファン投票の最終結果を受けると「複雑な気持ちが一番です」と率直なコメントを発した。

 今年の舞台は地震で被害を受けた熊本と大阪。それだけに出場意義は感じている。会見では「出るからには結果を出したい」と話した。ただ上原にとっての球宴は、最高の選手たちが最高のプレーを披露する場。自分は出場に足る結果をまだ残せていない。選出に「複雑」と反応したのはそんな心境からだった。

 球宴への思いを本紙にはこう明かした。

「選んでもらったことに関してはうれしいし、本当にありがとうございます、という気持ちです。でも本来、僕は出るべきではない。オールスターは僕の中では真剣勝負。成績を残した上位の人たちだけでやってほしいな、と思っていますから。もっと価値を高めていかないといけない。そういう思いはすごくある」

 上原にとって、忘れられない経験がある。レッドソックス時代の2014年、メジャー6年目でア・リーグ選抜として米オールスター戦に初出場した。そこでMLBのスター選手たちが笑顔を浮かべることなく、必死にプレーする姿に感銘を受けた。

「日本と違って1試合しかないし(出場するのは)30球団の中から選ばれた人たちですから。(選手は)本当に名誉として受け止めている。実際に試合も真剣勝負だしね。うれしいけれど、楽しめるほどじゃない。シーズンのようなドキドキ感がありましたね」

 近年はNPBでも選手を中心に球宴は1試合制にすべきとの声がある。上原は「ファンにとっても、選手にとっても、すごい価値があるものだっていうふうにしないと。『選ばれたい』って心の底から思われるようなものにしてほしい、というのはあります」と球宴の価値向上を願った。

 その上原も出場した米オールスター戦への出場が期待されていたエンゼルス・大谷翔平投手(23)が、今月上旬アクシデントに襲われた。右ヒジ内側側副靱帯を損傷して故障者リスト(DL)入りし、現在はPRP(多血小板血漿)注射を受けて経過観察中となっている。

 実は大谷が華々しいデビューを飾った開幕当初から、上原はプレーに注目しつつも先を案じていた。

「活躍は素直にすごい。けれど、まだ始まったばかり。これが果たして3か月、4か月と続くかどうか…」

 では起きてしまった現実を今、どう見ているのか。

「やっぱりそうなってしまったか、というね。予想通りといえば、予想通りなのかな」と語ると、熱狂する周囲へ向けてけん制球を投げた。

「2か月、3か月の結果でみんな騒ぎすぎだよね。厳しいようだけれど、やっぱり選手は1年間やってナンボなんですよ。だからイチローさんというのは“バケモノ”なんです。けがをせずに1年間やり続けることの方がより評価されるようになっていかないとね」

 シーズン通じてパフォーマンスを発揮する難しさを知るからこそ、現状の大谷を評価はできない。自身もオリオールズでの1年目は故障に苦しんだ。6月に右ヒジ腱の部分断裂が判明し、手術は回避したものの以降のシーズンを棒に振った。湿度や球の違い、スプリットの多投…、様々な原因がささやかれたが、当時の自分と大谷を重ねて上原はこう分析する。

「環境の変化と、やっぱりボールが滑るっていうのが一番でしょう。滑ることによって(より強く)ボールを握らないといけないんでね。握るっていうことはヒジに負担がかかるんです」

 一方で変化球の多投説には真っ向から反論した。

「スプリットやスライダーで痛めたという話は違うと思いますよ。スプリットでヒジを痛めると言いますが、僕は今もそればっかり投げているけれど、ヒジにメスは入れていない。だからその理論は違うと思っている。いまだにアメリカはそのへんの考え方が遅れているね」

 クールな現状分析は、日米の荒波を乗り越えてきた先輩から後輩へのエールに聞こえる。

「僕の立場では『頑張ってください』しか言えませんよ。ただ経験していけば、どんどん成績も安定して収めていくだろうし、彼の場合は今年が勝負なわけじゃない。評価もまだできないでしょう。(投手と野手)両方やるのか、片方やるのか。どうなるかは分からないけれどもね」

 自身11年ぶりとなる日本の球宴で、上原はどんな姿を見せてくれるのか。そして右腕も注目する大谷の今後はどう展開していくか。