【赤坂英一 赤ペン】「そろそろ、黒田、マエケン(ドジャース・前田健太)に代わる絶対のエースが出てこないといけない。チームが苦しいここぞというとき、しっかり踏ん張ってくれる投手がね」

 時々、広島首脳陣からそんなため息交じりの声を聞く。2016年からメジャー移籍した前田は自他ともに認める投手陣のリーダーだった。その16年を最後に引退した黒田博樹は常に粘りの投球を見せ、精神的支柱としてチームを引っ張った。

 いまの広島に、黒田、マエケンに代われる投手はいるのか。チーム関係者は首をひねって言う。

「順番から言えば7年目の野村だが、彼は技巧派で、力と背中でチームを引っ張っていくタイプではない。昨年、黒田直伝のツーシームで15勝を挙げた薮田は、今季絶不調で一からやり直しだ。3年目の岡田はまだまだ線が細く、エースの重責を担うには早過ぎる」

 となると、残るは5年目の大瀬良しかいない。10勝を挙げて新人王となった14年以降、一時は不振で中継ぎに降格させられていたが、昨季は3年ぶりに10勝をマークして復活。今季も先週22日、リーグ戦再開初戦の阪神戦で10勝目に到達し、ハーラーダービーのトップを走っている。

 あるセ球団打撃コーチは「大瀬良の復活はホンモノ」と太鼓判を押す。

「技術的に大きいのは、今季ルール改正でOKになった2段モーションを取り入れたこと。あれでフォームにタメをつくることができ、ボールにもグッと体重を乗せられるようになった。スピン量も増したようで、実際に打席に立った選手に聞くと、去年までよりキレが増し、手元で伸びている感じがするという。いまの大瀬良を攻略するのはなかなか厄介ですよ」

 この勢いなら、最多勝だけでなく20勝も視野に入ってくるだろう。

 強いて物足りない部分を挙げるとすれば、新人時代からおなじみの控えめで優等生的なコメントか。よく「チームに迷惑をかけてはいけない」と話しているが、そろそろ堂々と「ぼくがチームを引っ張っていきます!」ぐらいの頼もしいセリフを口にしてもいいはず。

 背番号14は私の世代にとって、完全試合1度を含む3度の無安打無得点試合を成し遂げた外木場義郎、炎のストッパーと呼ばれた津田恒実と、殿堂入りした先輩2人が背負った伝統の背番号。

 大瀬良にも新たな伝説をつくってもらいたい。