巨人は8日、西武に4―5で惜敗を喫し、6月以降では12年ぶりとなる単独最下位に転落した。誤算だったのは5回10安打5失点KOの菅野智之投手(28)。注目された相手先発・菊池雄星(26)との球界エース対決に完敗し、窮地のチームを救うことはできなかった。ただ最悪の結果にも、球団内から漏れたのはなぜか安堵の声。その意外な反応の理由とは――。

 幕開けからドームに悲鳴がこだました。菅野は初回、先頭の秋山に逆方向へソロを被弾。あっさり相手に主導権を手渡すと、その後も“らしくない”投球で傷口を広げた。3回は二死から3連打で2失点。その後4、5回も失点を重ね、先発野手全員安打を許し、5回の攻撃で代打を送られた。

 一方、相手エースの菊池はこの日も抜群だった。巨人打線は勢いある直球に押され、変化球にも全くタイミングが合わない。由伸監督が「前半は正直、何もできなかった」と白旗を掲げたように、7回まで2安打無得点と完璧に封じられた。

 打線は菊池が降板後に反撃を開始し、最終的には1点差まで詰め寄ったが、やはり序盤のビハインドは重すぎた。指揮官は「(菅野は)球自体は普段と特に変わらないと横から見て思ったが、今日は本人も多少思うところがあったのかな」と指摘したが、菊池と投げ合うことへの気負いは菅野にも当然あっただろう。

 それだけに、手痛い敗戦にもチームスタッフからはこんな意外な声も漏れた。「負けたのは悔しいけれど、ある意味ではホッとしたね。だって、智之が今年の西武打線を抑えて雄星に投げ勝っていたら、アイツにはもう日本に敵がいなくなってしまうだろ? モチベーションを保っていくことが難しくなるんじゃないか、こっちは心配していたんだよ」

 昨年の菅野はWBCで日本のエースとして活躍。シーズンでも17勝5敗、防御率1・59と圧巻の成績を残し、最多勝や最優秀防御率などタイトルをほぼ独占した。ただ、そんな右腕に唯一迫る成績を残したのが菊池だった。最終的に菅野が手にした沢村賞は選考が難航し、菊池との“ダブル授賞案”が検討されたほど。それだけにこの日は雌雄を決する直接対決として球界が注目していた。長嶋茂雄終身名誉監督もその一人。だが敗戦を振り返り「まあ、投手の出来の差かな」とコメントを発されたことは、右腕にとって屈辱だろう。

 菊池との投げ合いに敗れた菅野は「悔しいです。自分個人としても悔しいですし、チームを勝たせられなかったのが悔しい」と3度も「悔しい」という言葉を重ねた。それを聞いた前出のスタッフは「雄星は来年メジャーに行っちゃうかもしれないけれど、その悔しさが智之をさらに強くすると思うよ。次戦以降が楽しみだね」とほほ笑んだ。

 重い一敗を糧とできるか。「次に(西武と)対戦するのは日本シリーズになると思いますが、しっかり教訓を今後に生かしていかないといけない」とリベンジを誓った菅野。真の球界エースへ、倒さなければいけない相手がいる。