ヤンキース アーロン・ブーン新監督 コーチ経験なしでなぜ抜擢された?

2018年03月03日 16時30分

温厚な性格が指揮に好影響を与えそうなブーン監督(ロイター=USA TODAY Sports)

【球界こぼれ話 広瀬真徳】2月末になり、メジャーの春季キャンプが本格的に始まった。当地では大谷翔平(23=エンゼルス)の二刀流挑戦に注目が集まる中、もう一人の人物にも視線が注がれている。昨年12月、名門ヤンキースの指揮官に就任したアーロン・ブーン新監督(44)だ。

 祖父のレイ・ブーン(故人)を筆頭に、父ボブ、兄ブレットを含めて「ブーン一家」の一人としてメジャーで活躍。だが、現役時代に通算1000安打(計1017安打)こそ記録したものの、球宴2度出場の祖父、ロイヤルズとレッズで監督を務めた父、2001年に打点王に輝いた兄と比べ、アーロン氏の知名度は低い。

 強いて脚光を浴びた場面を挙げるならヤンキース時代の03年。リーグチャンピオンシップ第7戦(対レッドソックス)でサヨナラ本塁打を放ち、チームをリーグ優勝に導いたことぐらい。翌04年2月には球団から禁止されていたバスケットボールで左ヒザ靱帯を断裂。この違反でヤンキースを解雇された苦い経験も持つ。そんなアーロン氏が監督、コーチ経験もなく、クビにされた名門球団の指揮官に大抜てきされたのだから米メディアもあぜんとするばかり。監督就任直後から「ヤンキースは大丈夫か」という意見が噴出し、キャンプが始まった今でも新監督の手腕を不安視する声が後を絶たない。

 確かに、現役時代の実績を見れば、その反応も理解できる。しかし、本当に指揮官として「無能」なのか。私はむしろ周囲の雑音を吹き飛ばす結果を残すのではないかと推測する。

 根拠は彼自身の性格と独特の雰囲気だ。ヤンキース時代に取材経験があるが、アーロン氏はとにかく「気さくで温厚」という印象が強い。ソリアーノ、ジーター、ジアンビ、クレメンス、ペティット、D・ウェルズら個性派が集うスター軍団の中で、アーロン氏は気兼ねなく取材できた数少ない選手の一人だった。

 会話中に見せる優しい語り口や表情も柔和で、辛辣なニューヨークメディアですら「マスコミを大切にするし、誰に対しても優しい。憎めないんだよ、アーロンは」と一目置いていた。他選手と比べて実績が見劣りする中、長年スポーツ専門チャンネルの解説者として愛され続けてきたのは、こうした人柄があったからこそ。ヤンキースも、その点を見越して白羽の矢を立てたはずだ。

 29歳の田中将大がエース格になりつつあるヤンキースは今、世代交代が急ピッチで進む。チームに必要なのは選手と円滑に意思疎通が図れる指揮官である。

 若返りを進めながら手厳しいニューヨークメディアからの批判もかわす。采配力は未知数でも新監督のチーム操縦術には期待が持てる。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。