上原浩治「中継ぎピッチャーズバイブル」

 レッドソックスの上原浩治投手(41)はレッドソックスとの2年契約を終えた。再契約するのか移籍するのか去就が注目される。右胸筋を痛めて離脱した右腕は9月7日(日本時間8日)に復帰すると11試合連続無失点。ポストシーズンでもインディアンスとの地区シリーズで2試合に登板して無失点と素晴らしい投球だった。そんな中、あらためて注目を浴びているのは空振りの多さだ。90マイル(144キロ)に満たないストレートで次々とバットに空を切らせる。その極意を明かす。

 上原はリハビリの終盤でブルペン3回、ライブBP2回に登板したものの、日程の都合もあってマイナーでのリハビリ登板を経ずに復帰した。自己管理や調整法を確立しているベテランは「これだけ(長く)やっていれば、別に要らないと思う」と実戦登板の必要性を否定するが、首脳陣が最終テストをスキップする決断を下せたのは、上原の状態はもちろんだが、「スタットキャスト」の存在も大きい。

「スタットキャスト」とは2015年シーズンからメジャーの全本拠地球場に設置されたデータ分析システムだ。投球の球速、ボールの回転数、バットスピード、打球の角度やインパクト直後の速度、走者の速度などを瞬時に表し、テレビ中継などでも利用されている。

 8月29日(同30日)、上原はフェンウェイ・パークのマウンドに立って控えの野手を相手に25球投げた。後日、ファレル監督はこう話した。

「球速は若干出ていなかったが、全体的にコージの状態は戻りつつある。それはフェンウェイにあるテクノロジーも証明していた」

 上原はリハビリについて「特別なことをしたわけではなく、ただ、全てが予定通りに進んだってことじゃないですか」と振り返る。数値やデータについては「機械がやることに関しては興味がないし、信じないし、情報を得ようとも思わない。それに頼るよりもやっぱり自分の感触。機械では測れないものがありますからね。投げている自分の感覚を一番信じます」と話し、マスコミ報道についてもこう言及する。

「MAX何キロとか、相変わらず書いていますよね。スピードガン(の数値)よりも、試合のネタを書いてほしい」

 上原の主張は「野球は球速を争う競技ではない」ということ。例えばある投手のリポートで球速で示すなら、MAXではなく平均値、もしくは○キロ~○キロと範囲を示すべきだろう。だが、これは「(日本時代も含めて)自分はMAX148キロです」と、キッパリと、少し恥ずかしそうに話す上原の反発でも反論でもない。

「どう見ても速くないなと思っても、95~96マイル(152~154キロ)が出る人だっている。つまり、打者から見たら(球速ほど)速くない人もいるわけで、だったら88マイル(140キロ)でも速く感じる方とどっちがいいかってなると、88マイルの方でしょ。100マイル(162キロ)出しても打たれるやつは打たれますし。それよりも体感スピードの方が大事ですよ」

 いわゆる、打者の反応である。今季、上原の空振り奪取率はレギュラーシーズン終了時点(現地時間10月2日)で24・1%。メジャー平均15・9%はおろか、ヤンキース・田中の17・5%、レンジャーズ・ダルビッシュの21・6%も大きく上回っている。ストレートの球速は復帰後も85~88マイル(136~140キロ)だが、空振りは奪える。上原はどう感じているのか。

「確かに86マイル(138キロ)ですけど、自分の中では結構速いというか、いい感じで投げられていると思っていますよ。それに空振りを取れているわけですから、球速にこだわる必要はない」

 さらに上原は「スピードガンが出る投げ方ってあるからね」と明かす。「アンダースローの投手が90マイル(144キロ)出るかっていったら出ないでしょ。(オリオールズの)オデー、(レッドソックスの)ジーグラーが90マイル出るかっていったら出ない。でも、空振りは取れるんですよ。100マイル近く投げていても、空振りが取れない投手はいっぱいいる。だから(スピード)ガンじゃないんです」

 今季、正捕手の座をつかんだサンディ・レオンはこう証言する。

「確かにコージのストレートは86~87マイルだが、実はものすごいスピンがかかっている。特に高めのボールは強烈で、伸び上がってくる。これに、ナスティなスプリットが加わり、しかもストライクゾーンを広く使えるコントロールがある。だから奪三振が多い。つまり、球速の問題ではないということだ。まあ、そこにしっかりと投げられるコージはすごいね」