元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

【タイラー・サラディノ内野手(ホワイトソックス)】エンゼル・スタジアムのフィールドで、小柄な白髪の男性とすれ違って「あっ!」と引き返した。一人の選手がその人に駆け寄る。

「そう、これが噂のじいちゃんだよ!」

 その男性とそっくりな顔で、ホワイトソックスのタイラー・サラディノが満面の笑みを浮かべた。フィリピン人の祖父アルトーロさんと日本人の祖母ジャネットさん(両者ともハワイ生まれ)の血を引くタイラー。黒髪に茶色の瞳は親近感がある。

「野球を始めたのはじいちゃんがきっかけなんだ。とにかく野球が好きで、兄と僕、そして年の近いいとこらのコーチをしてくれて。でも、すごく静かであまり感情を表に出さない人だから、野球をする時もナチュラルな感じで『オッケー。練習しといで』だし、試合で勝てないと、ほんのひと言『もっとしっかり球を見なさいね』なんて具合。強要もしないし『やりたくなきゃやらなくていいよ』って言うんだけど、そこでばあちゃんがドーナツとかを差し入れしてくれていたから、みんなむしろ『野球の練習に行きたい!』ってなっていたんだよね」

 大学で奨学金をもらった時に野球選手の道もあるのだと自覚し始めた。

「でも『これじゃなきゃダメ! 絶対メジャーリーガー! 全てつぎ込まなきゃ!』と思ったことはないんだ。どちらかというとじいちゃんのように『よし、今日は何が学べるだろう? それを習得したら、少し(プロに)近づけるかな』の繰り返しで。今も同じプロセスだよ」

 祖父から学んだ最大の強みは「『忍耐力』。アジアンカルチャーだよね」と語る。野球をしていると、どうしようもなく落ち込む時があるが…。

「そんな時は、目と耳を全開にして、誰かからのアドバイスをもらう。スランプには必ず理由があるからね。でも、じいちゃんに聞いちゃダメなんだ。『じいちゃん、俺ひどいわ』って言ったら、絶対『うん、お前最低だ。ひどいよ』って返ってくるもん。ダメ押しのリアリティーチェックみたいに」

 そんな話をしてくれた矢先にアルトーロさん張本人が現れたので、私はその瞬間どんな有名人に会うよりも光栄に思えた。

 83歳のこのおじいさまは、タイラーがマイナー時代にはサンディエゴからノースカロライナまでの4000キロ以上もの道のりを、車で応援に駆けつけたというから本当にお元気。タイラーが練習に戻ったので、アルトーロさんに「そっくりですね!」と伝えると、優しい表情で「一番の孫だよ。あの子は、謙虚で、絶対に人の悪口を言わない、真っすぐな努力家なんだ。まさかプロ野球選手になるとはねえ。ただ、俺はあんなにおしゃべりじゃないんだけどな! あれは、俺の親父譲りだ」。

 物静かな人も、お孫さんの話となると冗舌になるのは、どこの国も変わらないのですね!

 ☆タイラー・サラディノ=1989年7月20日生まれ。27歳。カリフォルニア州出身。右投げ右打ち。183センチ、91キロ。2010年のドラフトでホワイトソックスから7巡目で指名され入団。同年11月に40人枠入りすると、15年7月にメジャーデビュー。同年は68試合に出場し、2割2分5厘、4本塁打、20打点、8盗塁。主に遊撃を守り、華麗な守備には定評がある。