元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

【ザック・ブリットン投手(オリオールズ)】まん丸な顔とまん丸な瞳。少し盛り上がった頬骨と赤らんだほっぺがキュートで、少年のようなあどけなさを残す。オリオールズの守護神、ザック・ブリットンだ。カリフォルニア出身らしいゆったりと聞き取りやすい英語を話すその雰囲気と、責任の重いクローザーのポジションにはギャップがあり、とても親しみやすい。それでいて「幼いころはとにかくハイパーでクレージーだったんだ」というから、意外だった。

「どれだけクレージーだったか? 数えきれないくらいエピソードがあるけど」。ザックがまず語ってくれたのはリトル・リーグ時代の出来事だ。ベースボールカード写真撮影の日、母は真新しいユニホームを着せてくれた。「カージナルスのリトルリーグチームだったと思うんだけど、真っ赤なユニホームを着て、撮影まで時間があったから家の周りで自転車を乗り回していたんだ。調子に乗っていたから当然転ぶわけで、気が付いたら顔中傷だらけで服はドロドロ。結局そのまま撮影するはめになって、顔中擦り傷だらけの写真が今でも残っているんだ」。母は激怒したらしいが、ザック自身は全く覚えていないという。それ以来「とにかくザックには奇麗なものを着せられない!」が母の口癖になったそうだ。

 高校1年時にはファウルボールを取ろうと頭からコンクリートに突っ込み、頭蓋骨と鎖骨を骨折、脳出血を起こし、2日間、病院の集中治療室にいたこともあったそうだ。しかも、ケガをしたのは試合ではなく、練習中。「ザックは何をするにしても全力で、とにかく負けず嫌いなんだ」。2番目の兄バックがあるインタビューでそんなふうに答えていた。

 そう。実は3人兄弟の三男坊。兄クレイとバックも野球でドラフトされるほどのスポーツ一家で、兄たちの背中を追いかけるよりも対等にやりあってきた。もしかしたらそれが、年がいもない無謀なチャレンジにつながっていたのかもしれない。

「もう大人になったから、さすがにケガはしたくないなって思って、なるべく変なことはしないようにしているよ」。落ち着いて話す姿からは、やはり昔の想像はできなかったのだが、ここで10か月になる長男ザンダード君の話になった。

「最近じゃ、野球以外の僕の時間は全て彼のものだよ。ザックと同じ『Z』から始まる名前を付けようと思ったらあまり選択肢がなくて、妻と『ザンダード』にしよう!ってすぐに一致。このごろ歩き始めたからどこへでも行って大変なんだ」

 10か月で早くも歩き始めた息子君の様子を思い浮かべた時、私は初めてザックの子供時代の片鱗が見えた気がした。

 ☆ザック・ブリットン カリフォルニア州ロサンゼルス出身。1987年12月22日生まれ。27歳。190・5センチ、88・5キロ。2006年のドラフトで指名を受けたオリオールズへ入団。11年4月3日のレイズ戦でメジャーデビュー。初登板初勝利を挙げるなど、同年はチーム最多の11勝をマーク。メジャー2年目の12年は肩の故障で出遅れて5勝止まり。13年は登板機会が激減する。14年シーズン途中、抑えに配置転換となり37セーブ、防御率1・65とブレーク。今季は8月31日現在、51試合に登板し4勝0敗30セーブ、防御率2・04。