元局アナ 青池奈津子「メジャー 通信」

【ジョン・ジェイソ捕手(レイズ)】「自分がいかに小さな存在かって思うんだ。物質的な世の中が取るに足らないものなのだと…」

 そう語ったのはカリフォルニア州北部の出身でレイズ捕手のジョン・ジェイソ。幼いころから父のグレッグさんに連れられ、兄弟たちと山中へキャンプに出かけていたことで「アウトドアライフは僕の一部」と語る。

「携帯電話の電波の届かないところで、ただひたすら自然に翻弄される。山のてっぺんから眺める景色…。そこには木や自然しかなくて、謙虚な気持ちになる。それが好きなんだ」

 暇さえあれば、山へ――。山は野球で疲れた神経を癒やしてくれる大事な場所でもある。ジョンに「山へ行くなら1人がいいか。もしくは誰かと一緒がいいか」と聞いてみた。「1人でも行ったことがあるけど『目の前の景色、君にも見えているかい?』と、感動を分かち合える人と一緒のほうがいい。家族だったり、妻だったり。実は、妻にプロポーズしたのも山の中だったんだ」

 自分らしくいられる場所で彼女にプロポーズしよう。幼いころから慣れ親しんだトリニティ・アルプス山脈へ、当時交際中だったシャノンさんを連れ出した。フロリダ出身の彼女はアウトドア経験がゼロだったが、初めてのキャンプを少し怖がりながらも楽しんでいるようだった。ジョンは夜になるのを待ってビッグプランを遂行…と思っていたのだが、ここで思わぬ誤算が待ち受けていた。

「山間にいたんで、いくら待っても月が山の陰に隠れて出てこないんだ。仕方がない。星は出ているんだからと夜のハイキングに彼女を連れ出した」

 辺りは真っ暗なまま。それでも美しい星空に見守られていることに勇気づけられ、ジョンはひざまずこうとした。しかし、ここでもまた予定外のことが…。「あまりに暗いんで、彼女が怖がって僕にしがみついたまま離れようとしないんだ。それで僕は彼女を抱きしめながら指輪を出して『君に夢中なんだ。僕と結婚してくれないか』とプロポーズしたんだ」

 シャノンさんの答えは「イエス」。その後も2人は抱擁したまま。星明かりの下、喜びをかみしめて…いたかったのだが、シャノンさんはジョンにこう言った。

「お願い、テントに戻ってもいいかしら?」

 やっぱり怖かったようだ。それでもテントに戻ったシャノンさんは落ち着きを取り戻すともらった指輪を懐中電灯で照らし、いつまでも眺めていた。その時に空を見上げると、そこには遅ればせながら月がくっきりと浮かび上がっていたという。

「もう少し早く出てくれたらなあ。でも素晴らしい思い出になったよ」とジョンは振り返る。きっと、あの時に煌々と輝いていた月は結ばれた2人を祝福してくれていたのであろう。

 ☆ジョン・ジェイソ 1983年9月19日生まれ。31歳。カリフォルニア州チュラビスタ出身。188センチ、93キロ。右投げ左打ち。2003年のドラフトでデビルレイズ(現レイズ)に入団。08年9月6日のブルージェイズ戦でメジャーデビュー。マリナーズへ移籍した1年目の12年には8月15日に行われた古巣・レイズ戦でバッテリーを組んだフェリックス・ヘルナンデスを好リードし、メジャー史上23人目となる完全試合に導いた。その後、アスレチックスを経て今季からレイズへ復帰。