8年ぶりに古巣復帰した広島・黒田博樹投手(40)が8日のヤクルト戦(マツダ)で“凱旋登板”を果たした。メジャー帰りの右腕に注目が集まる中、4回1/3を39球、打者13人を無安打無四球に抑える完璧な投球。約2万2000人が見守る中、期待にたがわぬ姿を披露した。いきなりの圧巻パフォーマンスでシーズンに向けて周囲の期待は高まるばかり。一方で、そのあふれ出る男気に首脳陣はヒヤヒヤしており、黒田の代名詞である“男気”禁止令まで出された。

 ファンの大歓声に包まれながらも冷静な投球だった。先頭の藤井に対して140キロのツーシームで打ち取り、続く川端、ミレッジを簡単に抑えて初回をわずか5球で切り上げた。テンポのいい投球で予定していた3回を無安打のままアッサリと終えると、球数を調整するため4回のマウンドにも上がりきっちりと三者凡退。しかし「もう一人いきたい」という本人の希望により5回にも登場した。まさかの“おかわり投球”に球場内がざわつくなか、畠山をスライダーで空振り三振させたところで交代となり、万雷の拍手のなかマウンドを後にした。

 メジャー仕込みのツーシームで開幕カードの相手となるヤクルト打線を手玉に取った黒田は「結果オーライで抑えられたところもあった」と反省の弁を口にしながらも「ストレート系についてはイメージに近いボールを投げられた。どんどんストライクゾーンで勝負して打たせて取るタイプなのでそれはできた」と、無安打という内容に手応えを口にした。

 開幕に向けてこれ以上ない“デビュー”となったが、その強過ぎる男気を周囲は心配する向きもあるという。それは右腕の守備についてだ。この日は危なげない守備を見せていたが、これまで行われてきた実戦形式のシート打撃では強烈なピッチャー返しのボールを反射的に利き手である右手で捕りに行く場面があった。実際、ヤンキース時代の2013年4月3日のレッドソックス戦で2回に打球を右手中指に当てて途中降板している。幸いにも大事に至らず中4日で同8日のインディアンス戦に先発したが、米メディアも危惧していたほどだ。入団会見で「いつ壊れてもいい。復帰1戦目で肩が飛んでしまう可能性もある。それでも後悔はしない」と話すほど『一球の重み』にこだわり、その日の登板に選手生命までささげる覚悟の黒田にとって、一つのアウトを取るための当たり前の反応かもしれない。

 しかし、24年ぶりのリーグ制覇のために黒田の活躍は不可欠だ。長いシーズンを見据える首脳陣からすると、このけがをも恐れない行動で右手を負傷し戦線離脱…となれば一大事となる。それだけではない。この黒田の“男気”を若鯉投手陣たちが模倣して「二次災害」に直結する危険性も出てきてしまう。そんな悪夢のシナリオが仮に現実化してしまうとしたら、黒田だけではなく投手陣総崩れの事態にまで発展しかねないだろう。

 それだけに畝投手コーチは「その日の本人のためにはなるかもしれないが、トータルで見るとまずい。(止めるように)本人にも伝えたい」と“男気守備”に関しては禁止令を出す方針を明かした。

 それほど赤ヘルにとって大きな存在となっている証拠ともいえる。「久しぶりに広島に帰ってきてたくさんの声援をもらってうれしかった」と充実の表情を見せた黒田。今後もその一挙手一投足、さらにはすっかり代名詞となった“男気”から目が離せない。