天をも味方「だって、デレク・ジーターだもん」

2014年10月05日 16時00分

元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

 

【デレク・ジーター内野手(ヤンキース)】まるで名作映画を見ているような気分の一日だった。ヤンキースのデレク・ジーターがピンストライプのユニホームを最後に身にまとった9月25日・オリオールズ戦。この日は朝から雨が降っていて、夜にかけても天気予報の降水確率は100%を示していた。

 

 午後3時。ヤンキー・スタジアムへ着いたが、当然ながらシーズン最後の本拠地での練習は雨のためキャンセル。いつもの3倍はいたであろうメディア陣は行き場がなく、クラブハウスで“彼”の到着を待っていた。

 

 午後3時40分、黒いスーツ姿のデレク・ジーターが到着した。今日のためのスーツかと思いかけたが…。チームは試合終了後に遠征へ向かうことから全選手にジャケット着用が義務付けられている。「僕は習慣の生き物」という彼のことだから、きっといつも通り遠征用のスーツを選んだのだろう。

 

 その場ですぐには話さず裏に消えること30分。今日は何も話さずに試合に臨むのかと思ったころに自分のロッカーへ戻ってきた。

 

「出てみるまでは何も分からない」

 

 約2分間の簡単な囲み会見。私は落ち着かず、そこからずっと球場内をうろうろしていた。雨は降ったりやんだりを繰り返していて、遅延は逃れられないように思えた。それでも刻一刻と試合時間が近づくにつれ、球場内にはいつもより早く集まったファンたちの熱気が増していく。

 

 するとどうだろう。雨が上がり、空が明るくなり始めたのだ。午後7時のプレーボール直前。米国の国歌斉唱のころには、ホームプレートの後ろの空はほのかに紫がかった夕暮れで、完璧なシチュエーション。あれほど懸念されていた天気だったのに、あの人は天まで味方につけてしまうのか――。

 

「だって、デレク・ジーターだもん」

 

 深夜1時近く、地下鉄の帰り道で出会った親子が口を揃えて言った。いや、誰もがそう口にしていた。雨雲を拭い去っただけでなく、打席では大フィーバー。9回表に3点リードを同点に追いつかれてしまうも、最後に登場して自らがサヨナラ打。これを「完璧」と言わずになんと呼ぶだろう。

 

 何度も泣きそうになって歓喜した。会見でデレクも、そう話していた。「今日、ここへ向かう車の中から泣きそうだったのに最後のヒットを打って、興奮もしていて…」と口にした彼の表情は、笑顔だった。

 

 あれから数日たつのに、球場で湧き上がった“ジーターコール”が頭の中で鳴りやまない。

 

「僕は、夢に描いたままの人生を生きてきた」

 

 そんなふうに言える人がこの世の中にどれだけいるだろうか。その夢の目撃者となれたことを心から幸せに思う。ありがとう、キャプテン。

 

 ☆デレク・ジーター 1974年6月26日生まれ。40歳。米ニュージャージー州ペカノック出身。右投げ右打ち。身長190センチ、体重88キロ。92年のドラフトで指名されたヤンキースへ入団。95年5月29日のマリナーズ戦でメジャーデビュー。96年にルーキーながらも遊撃手として開幕スタメンに抜てきされ、レギュラーに定着。打率3割1分4厘の高打率をマークして新人王を満票で受賞し、18年ぶりとなるチームのワールドシリーズ制覇にも大きく貢献。以降、ヤ軍のスーパースターとしてチームを支え続け、ワールドシリーズMVP、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞など数々の個人タイトルも手中に収めた。今季限りでの現役引退を表明している。

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