【ニューヨーク25日(日本時間26日)発】今季限りで現役を引退するヤンキースのデレク・ジーター内野手(40)が、本拠地ヤンキー・スタジアムでの最終戦で劇的なサヨナラ打を放った。5―5の9回一死二塁で右前打。二塁走者が捕手のミットをかいくぐって生還するという信じられないような幕切れに、あっという間に主将を囲む歓喜の輪ができた。ニューヨークのファン、いや全ての野球ファンの記憶に深く刻まれる歴史的な安打だった。

 映画やドラマのような結末だ。その瞬間、4万8613人が一斉に歓喜の声を上げ、ヤンキー・スタジアムが揺れた。視線の先で背番号2がひときわ輝いた。

 やはり、本当に“持っている男”は違う。雨で試合中止も予想されたが、プレーボール前にはピタリとやんだ。9回表を迎えて3点リード。もう打席は回ってこないと思われたが、守護神・ロバートソンがまさかの3失点…。9回裏、安打と犠打で一死二塁で“最後”の打席が回ってきた。「デーレク、ジーター!」手拍子とともに叫ぶ、おなじみの“ジーター・コール”がスタンドから大きな渦となって響き渡る異様な状況のなか、ジーターは静かにバットを構えた。

 初球だった。オリオールズの6番手・ミークの真ん中に入った138キロの変化球をバットのヘッドを遅らせてミートすると、打球は一、二塁間を鋭く抜けた。打球が速かった分、微妙なタイミングだったが、二塁走者は迷うことなく三塁を駆け抜け、捕手のミットをかいくぐって本塁へヘッドスライディング。劇的すぎるサヨナラ勝利だ。一、二塁間で両手を挙げて喜ぶ主将に、ナインが駆け寄りもみくちゃになった。大舞台での勝負強さから付けられた“キャプテン・クラッチ”の名にふさわしい、見事な一打を、本拠地最後の打席でやってみせた。

 イチローや黒田らナインと代わる代わるハグするとベンチ前でサプライズが待っていた。ヤンキースのジャンパーを着て、笑みを浮かべる男たち。一塁ベンチ付近にズラリと横に並んでいたのは、リベラ氏、ポサダ氏、ペティット氏――かつてジーターとともに「コア4」と呼ばれた戦友、“名将”ジョー・トーリ氏らだった。それぞれがねぎらいの言葉と熱い抱擁を交わすたびに、さらなる大歓声が降り注ぐ。

 いったんベンチ近くまで戻ったジーターだったが、一人だけフィールド内に帰っていった。静かに腰を下ろしたその場所は、20年間守り続けてきたショートストップの位置。目をつぶり感謝の祈りをささげると、再び大歓声が降り注いだ。

 インタビューが始まるとジーターの目が潤んでいるように見えた。「泣かないように努めました。正直言って、今日どんなプレーをしたか覚えてません。(ファンの)みなさんの応援によって今日の試合ができました。ずっと応援してくださってありがとうございました。(引退すると)全て寂しくなる」

 そしてフランク・シナトラの名曲「マイ・ウェイ」が流れる中、内野を一周。帽子を振ってファンに別れのあいさつ。最後に「サンキュー」。帽子を取り、総立ちのファンに手を振ると、クラブハウスへとつながる階段をゆっくりと消えた。最後まで涙を見せることなく、さわやかな笑顔を残し、ジーターはヤンキー・スタジアム、そしてニューヨークのファンに別れを告げた。