白血病の兄を励まそうと“自虐ネタ”

2014年08月24日 16時00分

元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

【ディロン・ジー投手(メッツ)】「全く信じられなかったよ。そんなことを考えたこともなかった。2年前、スプリングトレーニング最終日でシーズン前の最後の先発日だったんだ。ちょうどマウンドに行こうとした時に妻から電話で『お母さんから連絡があって、あなたのお兄さんが白血病と診断された』って言われたんだ」

 

 2012年の春、メッツのディロン・ジーに起こった出来事である。

 

「試合前で、相手はヤンキースだったから少し張りつめていたのに兄貴が白血病だっていうんだ。ショック、悲しみ、怒り…。いろいろな感情が込み上げてきて、そのあと、怖くなった。ピッチングのことなんてどうでもよかったよ」

 

 ディロンの5つ年上の兄・ジェレッドさんは、現在33歳。約2年前に白血病と診断され、それ以来、今も病と闘っている。

 

 ディロンは「幼いころから兄のお尻にぴったりくっつくように何でもまねをした」というほどに兄と仲が良い。兄がやっていたから野球を始めたし、父とのキャッチボールも必ず1球ずつ交代しながら投げ合っていたから自分は投手としてメジャーリーガーになれたのだという。でも職場はニューヨーク。テキサス州にいる兄家族や両親のそばにいられないのが、何よりもつらい。

 

「最初の1年は、病院を出たり入ったり。幼い娘がいるけど、ナースである奥さんは仕事をキープしなければ保険もなくなるし、生活費も稼げないから両親や祖母、皆助けに入ったけど、僕は何もできない…。こんなにも家族を支えるのが大変だって、兄が病に倒れて初めて気がついたよ」

 

 兄は抗がん剤治療を受けたが、寛解の診断が出たのもつかの間、すぐに再発してしまった。残す手は骨髄移植――。

 

「僕の骨髄を調べてもらったけど、不適合だった。幸いだったのは、骨髄バンクに100%適合するものがあって、手術を受けられたんだよ」

 

 それが約1年前。このまま何事もなく2年が過ぎれば寛解となる。実はディロン自身、12年7月に右肩に血栓が見つかり、手術でシーズンを棒に振り、一時は復活できるかも分からなかった。人生は時にとても不公平だ。

 

「ああ。でも人生は山あり谷あり。道中にはいろんなチャレンジがあるけど物事は変えられないから、受け入れて対応して打ち勝っていくしか方法はないんだって思ったよ」

 

 そう語るディロンが笑顔を浮かべたのがすてきだった。まだ完治はしていないが、だいぶ回復したジェレッドさんとオフに趣味の狩りへ出かけるのが楽しみだそう。

 

「そうそう、よくジョークを言うんだ。兄貴は、抗がん剤治療で一時は髪の毛が抜けたけど、少なくともまた生えてきたからいいじゃないか。僕のは、もう生えてこないんだぞって」

 

 そう言って、つるつるの頭をなでながらシリアスな場を和ませてくれたディロン。お兄様が早く良くなりますように。

 

 ☆ディロン・ジー=テキサス州クレバーン出身。1986年4月28日生まれ。28歳。右投げ右打ち。身長175・4センチ、体重93キロ。2007年のドラフトで指名されたメッツに入団。10年9月7日のナショナルズ戦でメジャーデビュー。11年にチーム最多の13勝をマーク。右肩血栓手術からの復帰となった13年は12勝を飾り、復活を印象付けた。