【元局アナ青池奈津子のメジャー通信=キーナン・ミドルトン投手(マリナーズ)前編】告白すると、私はそこまで野球が好きじゃない。…というと多少語弊があるのだが、仕事柄「無限の野球愛」にあふれてやまない人たちに囲まれているので、そこにはかなわないなという思いと、私みたいな取材人がいてもいいんじゃないかと、今季大リーグ取材歴15年目を迎えられたことで少しだけ勇気を持って言っている。

 ところが「俺も」、そう言った投手がいた。キーナン・ミドルトン。自分が始めたくせに、彼のそのひと言に耳を疑い「え、ちょっと待って待って」と突っ込んだのが2年前のスプリングトレーニング。「自分はバスケの方が好き。もしプロバスケの選手になれたら間違いなくそっちに行っていたけど、選手としては小さなガードだったし、海外だったら辛うじて戦力になったかな…いや、無理だっただろうな」。この時はトミー・ジョン手術明けの長いリハビリ中だったが、ポートランドの母校のチームでバスケのコーチをするのが本来の彼のオフの過ごし方だという。

 言われてみれば、練習着や普段着の着こなしがバスケット風かも…。自然な空気をまとった人で、高校生相手にコーチをしているのが話しやすさにつながっているのかと想像した。

「幼いころからバスケとアメフトをやっていたから、野球がどうしてもスローに感じていたんだよね。今はだいぶ好きになったけど、それでもやっぱりすごくゆっくり…遅いよね」

 スローという言葉を3回使い、納得したようにうなずいた彼はさらに「しかも僕はブルペンだし、けがだし、座って見ていることしかできない。悔しさ倍増」と笑った。

 ああ、そうかと思った。野球に対する情熱が劣っているのではなく、どこかもどかしさがあるのではないか。「そうかもしれないね。野球よりバスケの方が分かっているのは間違いない。野手の仕事はさっぱり分からない。ルールも全部分かってないし、戦略の立て方も、バスケだったら監督をやる自信あるけど、野球は皆目見当がつかない。難しい」

 そう言われたら「どうしてプロ入りしたの?」と聞かずにはいられなかったのだが「ドラフトされた時に、これだけのお金と機会を断るわけがないでしょ!って言って決めたよ」と、シンプルな答えだった。

「投手コーチなんてそれまでいなかったし、足をあげて一生懸命投げていたらそこそこ速くて、そこに教えてもらったらさらに速く投げられるようになって、というのを繰り返して今に至る」

 バスケは彼にとって最初に出会ったスポーツだったかもしれないが、彼の可能性を広げてくれたのは間違いなく野球だ。

「うん、100%。間違いなく、プロ入りしてから野球は自分にとって大事なものになったよ。毎日野球できることがたまらなく幸せ。15歳の時とは比べられないくらい。それでお金ももらえるなんて、とてもありがたい。文句一つない」

 でも、バスケの方が好き、確かに彼はそう言っていた。そこが面白かった。

 しかし、そんな彼から、去年のスプリングトレーニングで思いも寄らない言葉が飛び出したのだ。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない。=続く=

 キーナン・ミドルトン 1993年9月12日、米国・オレゴン州ミルウォーキー生まれ。27歳。191センチ、98キロ。右投げ右打ち。投手。2013年ドラフト3巡目で指名されたエンゼルス入り。17年5月5日のアストロズ戦でメジャーデビュー。同年は64試合に登板し、6勝1敗3セーブ、防御率3・86を記録する。18年は守護神として期待されるも5月に右ヒジを負傷してトミー・ジョン手術を受ける。19年8月にメジャー復帰し、同年は11試合に登板して防御率1・17と復活を果たす。20年12月にノンテンダーFAとなり、マリナーズと契約を結ぶ。