【元局アナ青池奈津子のメジャーオフ通信=フェルナンド・タティス・ジュニア内野手(パドレス)】「ベビーベッドで眠る生後2日目のあなたの胸元に、お父さんは誇らしげに笑いながら小さな木のバットを置いて『フェルナンド、お前もいつか父のような野球選手になるぞ。神のご加護を』と低音のしわがれた声で言ったのよ」

 幼いころのフェルナンド・タティスが、母ユデルカさんにせがんで何度も話してもらった父との思い出話。フェルナンドと同じ名の父は大リーガーを目指し、アストロズ傘下のマイナーリーグで頑張っており、会えるのはオフシーズンに母国ドミニカ共和国に帰ってきた時だけ。しかし、フェルナンドが5歳のオフから父は家に帰ってこなくなった。

 両親が離婚し、生活は困窮する一方。自分には野球選手の血が流れている。そう信じ、小学校を中退して路上で靴磨きをする中でも、決して諦めなかった夢。大リーガーになったら、父に会えるかもしれない…。

 大リーグデビューを果たした1997年。試合前の打撃練習中に呼び出されて出た電話から聞こえてきたのは、しわがれた父の声だった。

 フェルナンドをアマチュアFAでレンジャーズに招いたスカウト、オマー・ミナヤ氏がニューヨーク・タイムズ紙のムレイ・チャス記者に頼み、フェルナンドが父を捜している話を8月19日の紙面に掲載、話を聞きつけた父が翌20日、フロリダ州サラソタから電話をかけたのだった。

 これは、今年パドレスで大ブレークしたフェルナンド・タティス・ジュニアの父、フェルナンド・タティス・シニアさんの話。親子3代で同じ名前、職業も同じ野球選手なので表記がややこしいのだが、ジュニアの父と祖父は97年9月12日に約18年の月日を経て再会した。

 初代フェルナンドは73年3Aで大リーグまであと一歩までいったが、利き腕の肩を負傷。2Aまで落ち、その後も数年あがいたが、回復することなく現役引退。コーチの職に就くも酒量が増え、80年を境に野球と一切の関わりを絶ち、母国へ帰ることもやめた。息子を見捨てたことをその後ずっと後悔することになるが、どこかに逃げ出すしかないほど追い込まれていたのだという。再会にあたり、大の男が2人、ホテルで泣き合ったそうだ。この約1年4か月後にジュニアが生まれた。

「自分の子供には、同じような思いは絶対させない」。どん底から一心不乱に這い上がって大リーガーになった2代目フェルナンドが、野球に対する思いと同じような決意と情熱を息子に向けたことは想像に難くない。

 英語、野球、インタビュー、3代目のジュニアはどれを取ってもそつなくこなす。

「自分らしくいなさい。大リーグに行ったら、多くの友人をつくる機会に恵まれるから、友達をたくさんつくりなさい。常に謙虚で、全ての人をリスペクトし、自分らしくいられれば、トラブルとは無縁でいられるから」

 父から息子への最大の教え。

 語学、野球、環境。選手時代はできる限り球場に連れていき、可能な限りの英才教育を施し、息子を大舞台に備えさせた。人によっては苦労なく育ったことをうらやましく思うかもしれない。しかし父の思いに全力で応えようとするジュニアがなければ何も成り立たない。

 今年、オールMLBのファーストチームの遊撃手に選ばれたジュニアが自身のインスタグラムのストーリーに、受賞の盾を持ち「ショートストップは無理だ。外野に回せ! センターフィールドだ! いや端っこのどっちかだ!」と言いながら、どうだと言わんばかりに「ショートストップ」の文字にズームしている動画を投稿した。守備力が低い、彼に遊撃手は務まらないという批判の声に対する彼からの答えだった。

 肩肘張らず、自然体で笑顔いっぱいの愛されキャラ。全ては努力による結果なのだ。だからこそかっこいいのだと、タティス家の物語をひもとくほどに魅了された。来季も楽しみだ。

 ☆フェルナンド・タティス 1975年1月1日生まれ。45歳。ドミニカ共和国出身。92年にアマチュアFAでレンジャーズに入団し、97年7月26日に大リーグデビュー。カージナルス時代の99年には大リーグ史上初の1イニング2満塁弾と同8打点の新記録を打ち立てた。2010年にメッツを退団するまで通算949試合に出場し、打率2割6分5厘、807安打、113本塁打、448打点。08年にはカムバック賞を受賞。14年にメキシカンリーグで現役引退した。

 ☆フェルナンド・タティス・ジュニア 1999年1月2日生まれ。21歳。ドミニカ共和国出身。191センチ、84キロ。右投げ右打ち。2015年7月に国際FAでホワイトソックスと契約。16年にトレードでパドレス移籍。19年に開幕戦となる3月28日のジャイアンツ戦でデビュー。同年は84試合に出場し、打率3割1分7厘、22本塁打、53打点を記録し、新人王投票で3位に。60試合制の今季は打率2割7分7厘、18本塁打、45打点。次代を担う新星として注目を集めている。