
元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」
ヤンキースの田中将大投手(25)にタイガースのトリー・ハンター外野手(38)がアドバイスを送った。自らの体験を踏まえ、田中が手にする7年総額1億5500万ドル(約158億円)のビッグマネーは“こう使え”と指南した…。
この人と話すと元気や幸せな気持ちを分けてもらえる。そういうすてきな魅力を持っている人格者がトリー・ハンター。今キャンプでもたっぷり話し込んだ。テーマは「失敗談」だった。
「僕が9歳ぐらいの時、母の家の裏庭におのがあったんだ。屋根付きのテラスを支えていた柱を、持っていたおので“ドーン、ドーン”。たまたま木こりが木を切るアニメを見て、僕もやってみようって思ったんだ」
そんなことをすれば一体どうなるか、誰でも分かるはずだが、まだ少年だったトリーはそれを強行した。
「すると柱が折れて上から屋根が落ちてきた。間一髪、後ろにのけぞって難を逃れたけど母にこっぴどく叱られたよ。お尻を叩かれ、部屋に監禁状態。ご飯もまるで刑務所みたいに母がドアの隙間からお皿を滑らせてきてさ。日の出から日の入りまで、ひたすら反省文を書かされた。子供の時って時間が進むのが遅いだろ? 永遠に出てこられないかと思ったよ。両親に迷惑をかけたから仕方ないけど、あれは本当にアホだったなあ」
ちなみに、おので素振りの練習をしたわけではなかったそうだ。大人になってからの失敗談は少し切ない。
「信じられないかもしれないけど、家族にたくさんお金をあげてしまったことなんだ。僕は家族を助けたよりも逆に傷つけてしまったように思う」
当コラムでは以前、トリーがスラム街の出身で父親の薬物中毒や腹違いの弟がいることなどを紹介したが、そのとき彼は「野球のおかげで家族を助けられたから笑顔でいられるんだ」と言い切った。ところが…。
「世の中のほとんどの人は、家賃やローンや車のために一生懸命働く。でも僕が兄弟たちに買い与えたことで、彼らは頑張って物を得ることを知らない。まもなく僕のキャリアも終わり、収入がゼロになったら彼らの収入も断ち切られる。家族の救世主になりたいと思ってしたことだけど、気を付けなければならないね」
ヤンキースと巨額な契約を結んだ田中に対するアドバイスを求めたら、こういうトーンの話になってしまった。真摯な言葉が心に響く。でも決してシリアスな話で終わらないのもトリーだ。
「(田中の)将来のこと、子供の大学資金などをまず信託ファンドに入れてしっかり家族のためにセットアップしたら、自分の好きな“おもちゃ”を買えばいい。いろんなクルマに、家は…あまり買わない方がいいな。いや、2つぐらいかな。そうそう、米国では皆が投資を持ちかけてくるけど必ず不動産、証券、他に何か…って分散させること。リスクヘッジってやつさ。大金は努力のたまものなんだ。大いに楽しんだらいい!」
親指でグーサインを出しウインクをしてみせたトリーと田中の対戦も楽しみだ。
☆トリー・ハンター=1975年7月18日生まれ。38歳。米アーカンソー州パインブラフ出身。188センチ、102キロ。右投げ右打ち。93年のドラフトで指名されたツインズへ入団。97年にメジャーデビュー。2001年に中堅手としてゴールデングラブ賞に輝き、以後09年まで9年連続で同賞を受賞した。08年からエンゼルスでプレー。10年にチームメートになった松井秀喜氏とはお互いに親友と認める関係。同年のシーズン途中から右翼へコンバート。12年11月にタイガースと2年2600万ドル(約26億5000万円)で契約を結んだ。メジャー屈指の「守備の名手」と呼ばれている。
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