元局アナ 青池奈津子「メジャー“オフ”通信」

【デービー・ジョンソン氏(ナショナルズ前監督):後編】彼が生涯2度目の引退宣言を口にしたのは昨年秋のことだった。当時のデービー(デーブ)・ジョンソン氏はナショナルズの指揮官。前年の2012年にナショナルリーグの最優秀監督に選出されたばかりだったものの、誰もが認める名将は唐突に「メジャーリーグの監督業から引退する」と表明した。決して野球が嫌になったわけでも、メジャーリーグが嫌いになったわけでもない。オーランドの自宅で20年連れ添っている妻スーザンさんと過ごし、ゴルフや釣りを楽しんだら「また動き出すつもり」という。じっとしているのが嫌いな性格のようだ。

「メジャーリーグとの契約は切れたけど、これからも野球には関わるつもり。次はオーストラリアかな。あそこも良い野球をしているから、私にも若い連中の力になれることがあるんじゃないかと思って」

 人格者らしい発言に感動した。彼の言葉はとにかく奥が深い。

「お金はたくさんあるから不自由しないけど、誰かが払ってくれるというのは、それだけ自分を欲してくれているという証拠だからね。自分が何かで返すことができる価値のある人間だという証しだ。でも、もしオファーがなくても行くつもりだけどね。マイレージがいっぱいたまっているからタダで飛行機に乗れるし、泊まりたいフォーシーズンズホテルも割引レートがもらえるから(笑い)」

 こういうジョークもセンスがいい。ちなみにこの人は財テク能力にも優れている。

「野球選手になった時にもらったボーナスで9000ドル(約324万円=当時)で買った物件が最近、150万ドル(約1億5200万円)で売れたんだ。ラッキーだったね。頭が良ければお金を稼ぐために働き、いずれお金が自分のために働いてくれるようになるよ」

 なるほど…。「人生の師匠」と多くのメジャーリーガーから拝まれるような人物が口にする言葉は、やっぱり一語一句が文字通りの“金言”なのだろう。

「野球は競争するゲームであるということが最大の魅力」と話す彼に「選手と監督業、どちらが好きか」と最後に尋ねた。

「試合に出るのも好きだったけど、選手の負う責任は最低限。監督は、たくさんの責任を負う。私が彼らのキャリアをコントロールするんだ。人生も。それが楽しみの一つ。私が選手の味方であり、選手に成功してほしいと願っていることを彼らもよく知っている。だから、きっと監督業の方が楽しい。エゴはないから、私にクレジットがつかなくても全く構わないんだよ。自分の中で正しいことをしたと分かっていればいい。私自身が一番の評論家なんだ。ちゃんと準備さえすれば私の頭の中では、どのシナリオも持ち得る全ての情報から最良の選択ができると思っている。迷ったことは一度もないよ」

 果たして今はオーストラリアの若者たちと楽しく球拾いをしているのだろうか。いつまでも若く元気でいてもらいたい人物である。

☆デービー(デーブ)・ジョンソン=1943年1月30日生まれ。71歳。フロリダ州オーランド出身。身長185センチ、体重83キロ。62年にオリオールズと契約。66年にチームの正二塁手に定着し、新人王を獲得。66年と70年のワールドシリーズ制覇に大きく貢献。ブレーブスを経て75年から巨人へ移籍。入団2年目の76年はチーム2位の26本塁打をマークするなどリーグ優勝に貢献。77年から再びメジャー球団のフィリーズでプレーし、78年にカブスで引退。メッツ、レッズ、オリオールズ、ドジャースで監督業を歴任。五輪やWBCで米国代表チームを率いるなど「屈指の名将」として知られる。