219勝右腕ペドロ・マルティネス氏“鬼の仮面”の裏の素顔

2020年06月13日 16時30分

ジマー・コーチを投げ飛ばしたマルティネス(ロイター)

【メジャー回顧録(3)】見かけ以上に実はいい人――。過去に出会ったメジャー戦士の中で、この思いが強いのはレッドソックスなどで活躍したペドロ・マルティネス氏(48)である。

 メジャー実働18年で計219勝を挙げたドミニカ共和国出身の右腕。3度のサイ・ヤング賞に輝くなど実績は申し分ないものの、一般的な彼の印象は決していいとは言えない。現役時代、マウンド上での高圧的な態度や厳しく内角を突く強気の投球で数々の乱闘騒ぎを引き起こしたからだ。なかでもその印象を決定づけたのが2003年10月。ヤンキースとのリーグ優勝決定シリーズ第3戦で見せた「重鎮との一戦」だろう。

 この試合、先発した同氏は序盤から乱調気味。4回表には相手打者ガルシアへの背中への死球などもあり、グラウンドには不穏な雰囲気が漂った。迎えた4回裏“事件”は起こる。

 ヤンキースの先発クレメンスが打者ラミレスの頭部付近に投げ込んだボールをきっかけに両軍が衝突。この際、当時72歳でファンから愛されていたヤンキースのドン・ジマー・ベンチコーチがマルティネスに猛然と突進したのだが、彼は老将を止めるどころかグラウンドに投げ倒してしまったのである。

 あくまで「自己防衛」だったにもかかわらず、この一件でファンの怒りを買った同氏。以後、11年の現役引退まで悪役イメージを払拭できなかった。

 もっとも現場を知る人間から見れば彼の人柄は悪くなかった。辛辣な質問を投げかける米メディアには無視や悪態をつく場面もあったが、日本人への対応は真摯そのもの。登板日以外であれば、アポなしで取材に応じることもしばしば。自ら「イチローは日本でどんな存在なんだ? マツイは人気があるのか?」と逆取材することも珍しくなかった。マウンドで見せた鬼の形相や挑発行為は仮面にすぎず、素顔は人間味あふれるラテン気質なドミニカンだった。

 身長180センチとプロ野球選手としては小柄ながら、15年1月には有資格1年目で米野球殿堂入り。同年7月にはその偉業をたたえレッドソックス時代の背番号「45」が同球団の永久欠番に制定された。

 引退後に改めて功績が評価されつつあるマルティネス氏。近い将来、指導者として球界に復帰してくれれば興味深い存在になるかもしれない。