【メジャー回顧録(2)】マーリンズの最高経営責任者(CEO)で元ヤンキースのデレク・ジーター氏(45)が自身の給料を球団職員のために全額返納していることが4月末に判明。全米で称賛されている。

 同氏の現年俸はおよそ500万ドル(約5億3000万円)。複数の米メディアによれば、この金額すべてを自軍の従業員給与に充てると同時に、自身の私物をチャリティーオークションに出品。落札額の全額を非営利団体に寄付するという。彼の「男気」が絶賛されるのは当然だろう。

 同氏のこうした「背中で仲間をけん引する姿勢」。ヤンキースの主将時代から定評があった。

 個人的に最も印象に残っている場面は2004年7月1日、本拠地ヤンキー・スタジアムで行われた宿敵レッドソックスとの首位攻防戦で魅せた「決死のダイビングキャッチ」からの復活劇である。

 両軍譲らず同点で迎えた延長12回表。ヤンキースは二死二、三塁の窮地を迎え、相手打者はこの場面で三塁後方へ小飛球を放った。次の瞬間、ショートの守備位置にいたジーターが猛然とライン際に走り込み打球をキャッチ。そのまま勢い余って三塁観客席に頭から突っ込んでしまったのだ。捨て身のダイビングでチームを救った主将はこのプレーであごを負傷。血だらけになりながら病院への直行を余儀なくされた。

 このキャプテンの闘志にナインは奮起。結局試合は13回にヤンキースがサヨナラ勝ちをもぎ取ったのだが、彼のすごさはその翌日。あごを7針も縫う大ケガを負ったにもかかわらず、午前中に球場入り。何事もなかったように直後のデーゲームに先発出場した。

 当時現地で取材していた報道陣の誰もが試合前までジーターの長期離脱とチームの戦力低下を疑わなかった。その予想をいい意味で裏切ったばかりか、自らの健在ぶりをアピールすることで周囲の動揺を一蹴した。今も語り継がれるこのシーンはジーターの象徴であり、尊敬されるゆえんでもある。

 ジーターと同僚だった松井秀喜氏(現ヤンキースGM特別アドバイザー)も当時、こう評していた。

「ああいうプレーを見ると彼の人間性を感じるし、チームも勇気づけられる。上に立つ理想的な人だよね」

 折しも世界中がコロナ禍の真っただ中。政治や一般社会ではリーダーの手腕が問われている。そんなご時世で再注目されるジーターの行動力や振る舞いの数々。日本の指導者や経営者にも見習ってほしいものである。