【広瀬真徳 球界こぼれ話】打開策はあるのか。マリナーズの菊池雄星投手(28)がメジャーの壁に苦しんでいる。

 今季5試合目の登板となった4月20日のエンゼルス戦で初勝利。その後も白星を重ね、勢いに乗るかと思われたが5月末からは黒星続き。8日のエンゼルス戦では大谷翔平(24)らに3者連続本塁打を許すなど自己ワーストの7失点で4敗目(自身3連敗)を喫した。

 本人はここ数試合の不調に関し「(ボールが)甘くなっても差し込めるような球になっていない。軌道も一定しないというか、いい時と悪い時がはっきりしている」と分析。そのうえで「この苦しい時期、苦い経験を必ずプラスにしたい」と、前向きな姿勢を貫いている。

 メジャーを夢見て幾度もの窮地を乗り越えてきた左腕。個人的には期待したい。だが、現状のままで復調できるかといえば疑問符が残る。調子を落とし始めた5月末から1試合における奪三振数が激減しているからである。

 最後に白星を飾った5月19日までの奪三振数は11試合で49(1試合平均4・5)だった一方、その後3連敗した3試合は合計でわずかに2個。いずれも3回1/3で降板したとはいえ、この数字は異常だ。

 何が彼の投球を狂わせたのか。菊池を知るあるスカウトに話を聞くと「疲労や相手打者が慣れてきたこともありますが“あの問題”も尾を引いているのでは」とこう漏らした。

「転機は5月中旬(8日)のヤンキース戦です。この試合で雄星はメジャー最長となる7回2/3を投げ、3安打1失点で快勝した。ただ、試合後に『松ヤニ使用疑惑』が米メディアに報じられましたよね。これで滑るボールへの対策に狂いが生じてしまったのではないかと思います。メジャー投手は多かれ少なかれ松ヤニを含めた滑り止めを使用しているため、目立つ行為がなければ黙認されます。実際、雄星自身にもおとがめはなかった。でも、本人は真面目な性格ですから使用を控えてしまったのでしょう。ボールに力が入らず、思うように制球できていないのはそのせいではないか」

 言われてみれば今のフォームは開幕当初に比べ躍動感がなく、ボールを置きにいく感じが見受けられる。スピンの利いた直球が陰を潜めているのもその影響なのだろう。

 かつて松坂大輔(38=現中日)もメジャー1年目にこの問題に直面した。彼は捕手や審判から新球を受け取るたびに土や汗、ツバなどを巧みに活用。ルールの範囲内で試行錯誤を重ねながら、常に指になじむボールを作り出していた。菊池も同じ問題で苦しんでいるのであれば…早急に対策を講じる必要がある。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。