不機嫌顔の裏に隠れた柔らかな父の顔 フィリーズ、ジェーク・アリエッタ投手

2019年06月15日 16時30分

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】クラブハウスの入り口に立っていると、袖を切り離したTシャツを着たジェーク・アリエッタが通りかかった。

 ひげもじゃの真顔で、コードレスのイヤホンを耳からぶら下げ、携帯を見たままニコリともしない。声をかけても不機嫌そうな彼に「あなたはハッピー?」と聞くと「この生活をさせてもらえる自分がハッピーじゃない理由なんてあるかい? もちろん嫌な気分の日だってあるけどね、いずれ大丈夫になるもんさ」と律義に返してくれた。しかめ面とキャラはリンクしていないらしい。いつも緊張感が漂う選手なので少し度肝を抜かれたが、こんなチャンスはめったにない。

 なんとかつないだ会話で、大学はマーケティング専攻だったこと。野球をやっていなければ、マーケティング関係のビジネスについておカネを稼ごうと思っていたことなどを聞き出した。

「長いこと、プランBを持っていたよ。何度も野球を辞めようと思ったからね。キャリアを終えたら、自分はたぶん野球場には戻って来ず、どこかでビジネスしていると思う。今も500レベルっていう友人のTシャツ会社に関わっているんだけど、デザインを考えるのが難しくて楽しいね」

「イチローはコンビニに行けないだって? そりゃクレージーだね。でも誰にでも、クレージーな一面はあるさ。全然悪いことじゃない。自分? うーん…。強いて言うなら、完璧を求めすぎるかな。やりすぎるきらいがある」

 ちょうどこの日のドジャースの先発、クレージーなまでの完璧主義者として有名なエース、クレイトン・カーショーが浮かんだ。

「あぁ、カーショーはスターだから何してもいいんだ。俺? 一応そうかもしれないけど、自分が別物になった感じはしないんだよね。プレッシャーとか注目とかにも、いつの間にか慣れていたし」
 相変わらず無表情の彼だが、少しずつ親近感が湧いてきたとき。

「あ、そういえばこれね、息子とオンラインで対戦しているんだ」

 実は話の間中、ずっと携帯ゲームをいじっていたジェーク。器用に手を動かすマルチタスカーと思っていたら、なるほどクーパー君が電波の先にいたというわけか。

「『ブラウル・スターズ』っていう対戦型のゲームで、7歳の息子が教えてくれたんだけど、結構面白くてさ。会えない時にもつながっていられるツールとしてすごく大事だし、うちの子、本当に頭いいんだよね」

 あれ、真顔で息子自慢している?

「自分が子供のころは、こんなゲームなかったから、父との交流は主にキャッチボールだったかな? 自分も息子のそばにいたら一緒に野球やっているよ。うちの子、野球大好きで、常にやりたがっているから、いずれ大リーガーになるかもしれない」

 さっきまでとは確実に違う柔らかい空気感を出し始めたのを合図に、退散することにしたその時。クッと顔を上げて手を差し出し「ありがとう。話せて楽しかったよ」と力を込めて握手してくれたジェークはなおも真剣な表情。でも、どこかほほ笑んでいるようにも見えた。

 ☆ジェーク・アリエッタ 1986年3月5日生まれ。33歳。米国・ミズーリ州出身。右投げ右打ちの投手。2007年MLBドラフト5巡目(全体159位)でオリオールズから指名されプロ入り。10年6月のヤンキース戦でメジャーデビューし、初登板初勝利。150キロ台の速球を武器に先発投手として同年6勝を挙げた。13年7月にカブスへ移籍。15年にノーヒットノーランを達成。同年22勝6敗、防御率0.75の成績でサイ・ヤング賞に輝く。16年にも2年連続でノーヒットノーラン達成。18年フィリーズへ移籍した。

【関連記事】

関連タグ: