【元局アナ・青池奈津子のメジャー通信】今回も韓国リーグで3年プレーし、一大スターとなって大リーグに帰って来たエリク・テムズのお話を。

「興味深かったのは、アメリカでデーティング(恋愛)って、割と長期間付き合ってから結婚するのが一般的だと思うんだけど、当時27歳で韓国に行って、本当によく『何でまだ結婚していないの? 何で子供いないの?』と聞かれたんだ。そのたびに『まだ運命の人に出会えていないんだ』って。友人の中には、出会って1週間くらいで婚約して、翌年には子供がいるなんてこともあって、僕からすると『オー・マイ・グッドネス!』って感じなんだけど、それがカルチャーの違いなんだと思ったよ。24、25歳のチームメートが、両親らにそろそろ結婚して子供つくりなさいって言われていて、僕がその年のころなんて、自分の面倒もろくに見られなかったのに!」

 今年1月、野球帽に頭から首元まですっぽり隠れる骸骨マスク付きのかぶり物、長袖長ズボンに手袋という完全防備ないでたちでエリクが立ったステージは、韓国の人気音楽番組「ザ・マスクド・シンガー」。このために数か月準備したというエリクは、見事な美声でスティービー・ワンダーの「Isn’t She Lovely?(可愛いアイシャ)」と、10cmという韓国人アーティストの「Americano」を韓国語で歌いあげるのだが、正体をさらした時の韓国のタレントさんたちの「テムズだ!」という驚きの表情から、韓国で「神」とあがめられる彼が野球の記録以上のものを残してきたことが感じ取れた。

「文化について学びたかったから、アメリカ人と付き合うのはダメってルールを自分に課したんだ。本を読んだり、人に聞いたりしただけじゃダメで、自分自身を環境に浸らせなければならないと感じたから」

「チームメートらと一緒に過ごしたり、デートに行ったり。それでたくさんの食事を知ったよ。キムチチゲスープ、サムギョプサル、タッカルビ。ポークやビーフのメニューが多いね。アメリカでの食材に比べて、あちらの食材がいかにフレッシュだったことか!」

 韓国時代にアメリカに帰省したら、食事で体調を壊したこともあるそうで「アメリカの食材ってケミカルがたくさん使われているんだよね。韓国は生産者から直接レストランというところが多いらしくて、それはすごくよかった。なんだっけな、ラム肉の串に刺さっていて、ソースと塩味をミックスしたような…おいしくて大好きなんだよね」。

「あとはLPバーによく行ったな。いろんなレコードが置いてあるバーで、流してほしい曲のリクエストを紙に書いて渡すと、年配の亭主がレコードをかけてくれるんだ。チームメートと思いつける限りの変な曲をリクエストするんだけど、必ず持っていてかけてくれるんだ。アメリカでLPバーはあまり見かけないね」

「でもなんといっても韓国で一番恋しいのはファンたちかな。応援方法とか、音楽とか、ユニークで情熱的だったんだ」

 明るくうれしそうに語るエリクが、当時新しい文化に触れるたびに驚き、興奮しただろうさまが目に浮かんだ。そして、自分を猛省した。

 正直、エリクと話すまで、韓国リーグの球場には必ずプロの応援団がいて、団長やセクシーなチアリーダーたちが試合中もダンスやマイクパフォーマンスでずっと盛り上げていること(しかも内野席で!)など、自分が何も知らないことにも気づかなかったのだ。「同じアジア人」という勝手な共通認識に甘えていた自分が恥ずかしい。

 大リーガーからまた一つ教えてもらった新しい見解。韓国野球はスタジアムグルメもすごくおいしそうだし、機会があったら行ってみたい。

 ☆エリク・テムズ 1986年11月10日生まれ。32歳。米国カリフォルニア州出身。一塁手、外野手。右投げ左打ち。2008年のMLBドラフト7巡目(全体219位)でブルージェイズから指名され入団。11年にメジャーデビューし、同年12本塁打。12年シーズン中にマリナーズへ移籍。13年以降はマイナー生活が続き、同年6月にオリオールズ、同年9月にアストロズへ。同年12月に韓国プロ野球のNCダイノスと契約。同チームの主砲として3シーズン活躍したのち、16年オフにブルワーズと契約し、メジャー復帰。17年に31本塁打を放つなど逆輸入選手として大暴れした。183センチ、95キロ。