チームを支える控え捕手「笑顔でいるだけでチ-ムに貢献できる、そう気付いた時に何かが変わった」

2019年04月13日 11時00分

控え捕手としてチームを支えるクラツ(ロイター=USA TODAY Sports)

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信=エリク・クラツ捕手(ジャイアンツ)】「プロ生活18年。僕のスタッツを見たら『ああ、たいしたことのない選手ね』って思うだろうし、訪れる町々で僕のことを知っている人なんてほとんどいないけど、それでもいいんだ。野球のポットには本当にいろんな選手が混ざっていて、僕みたいなのがいる。いろんな国のいろんなスタイルの野球が溶けて混ざってワールドチャンピオンになる希望を抱いている」

 エリク・クラツがこれまで大リーグでプレーした機会は、2010年にデビューしてから約9年間で300試合にも満たない。それもスタメンとは限らず、様々なチームを渡り歩いてきたため、コアな野球ファンでさえ彼とすれ違っても気がつかない。それでもまだ、野球場には彼の居場所がある。

「フィールドでいいプレーをするのは当然だけど、それ以外にチームメートがどんなやつらか、どうやったら最良のパフォーマンスができるのか知らなきゃならない。場面に応じてこいつからこの能力を引き出して、次はこいつのこの能力でってつないでいくのが野球。僕はそういう面をチームにもたらしている選手じゃないかな。チームの一人ひとりに多くの時間を割いている方だと思う」

 大きな体でドンと構え、周囲に気を配る。捕手としての特質がそうさせるのか、笑顔で「安心感」を醸し出すエリクとの会話は、いい話を聞いた時の充実感で満たされた。

「野球を辞めたいと思ったことなんて山ほどあるさ。ロースター枠を空けたいからってけがもしていないのに負傷者リストに入った揚げ句、ルーキーリーグに戻されたりとかね。成績は十分いいのに、なんでだよって。迎えに来た父に、もう家に連れて帰ってくれて構わないって言ったら、とりあえずシーズンをやり遂げることを説得されて。そうやって他の選手を野球の出来以外で優先されたことがたくさんあるから、やるせなくなる時はあるさ」

「サラのおかげだよ。僕が独身だったら、野球を続けられていない。妻がいたから今こうして野球ができていて、家族も大丈夫」

 彼に一番の影響を与えた人物の名前を聞くと、大学時代に知り合い、3人の子供をもうけた妻サラさんの名前が即答で返ってきた。

「最初、5年間頑張ってみて考えようと約束したんだ。5年がたったとき、僕はブルージェイズの2Aと3Aを行き来する選手だった。サラが『まぁ、もう1年だけやってみよう』と。そうやって1年1年。彼女のすごさは、開幕戦のロースターに名前が載ることの大切さやボールを捉える機会の難しさなど、一つひとつの瞬間を認識して感謝する能力にたけていて、静かに見守れる精神力」

 夫がどのチームへ行こうと、家族全員引き連れてサポートしてきたサラさん。2人目の子供が生まれた09年、喉元まで出かかった言葉をのみ込んで野球を続けさせてくれたことで、10年にメジャーデビューできたのだと、思い出を味わうように幸せそうな顔をしたエリク。

「笑顔でいるだけでも誰かにいい影響を及ぼせるんじゃないか。たとえ試合に出ていなくてもチームに貢献することができるんじゃないかって気づいた時に何かが変わったんだ」

 エリクへのインタビューは、笑顔の威力を思い出させてくれるすてきな10分間だった。

 ☆エリク・クラツ=1980年6月15日生まれ。38歳。米国ペンシルベニア州出身。右投げ右打ち。捕手。2002年にMLBドラフト29巡目(全体866位)でブルージェイズから指名され、入団。10年にパイレーツでメジャーデビュー。その後はフィリーズ、ブルージェイズ、ロイヤルズ、フィリーズ、アストロズ、パイレーツ、ヤンキースと渡り歩き、19年はジャイアンツでプレー。14年の日米野球ではMLB選抜の一員として来日している。193センチ、115キロ。