コリー・ギアリン 「16歳の僕を変えた旅と一冊の本」

2019年03月30日 11時00分

東京ドーム開催のアスレチックス戦で登板したギアリン

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信=コリー・ギアリン投手(マリナーズ)】「ロサンゼルスに旅行だと? 行ったらチームからは除名だ。そう簡単にチームメートを放ってどこかへ行くなんて許されない」

 テネシー州の小さな田舎町に住む高校野球チームのコーチが、当時16歳のコリー・ギアリンを怒鳴った。確かに野球はチームスポーツだ。コーチは間違っていない。

「でも、どうしても行きたかったんだ。友達のお姉さんがロスに引っ越して『遊びに行くから一緒においでよ』って。こんな片田舎からハリウッドに行くチャンスなんてきっと二度とない。野球は大好きだからチームにはいたいけど、その頃の僕はうまい選手とは言えなくて、2年生でも万年ベンチ。この旅に出たとして逃す1試合にも、自分が出るとは思えない…」

 考え抜いた末にコリーが取った策は、先輩たちに聞いて回ること。おおかた「自分の好きにしろよ」との意見で、ナインの承諾を得た格好となった。コーチは「行ってもいいが、帰ってきたらそれなりの処分があるからな」と最後まで厳しかったが後悔はない。

「初めての旅がロスで本当に本当に良かった。外の世界は広くて、怖いところじゃなかった。むしろアプローチしやすいところなんだって胸がいっぱいだった。帰ったらコーチに1000マイル(約1609キロ)走らされたけどね。そこからいろいろ頑張れるようになった」

 この旅を境に集中して野球をするようになったコリーは、同年にもう一つすてきな体験をした。

「16歳の誕生日に叔母からもらった本を暇つぶしのつもりで読んだら、人生観がひっくり返るほどの衝撃を受けた。本はただ読むものではなくて、自分の人生の軌道さえも変えてしまえるもの、自分の世界観を変えられるものなんだって知ったのはこの時だった」

 その本はブラジル人作家パウロ・コエーリョの小説「アルケミスト 夢を旅した少年」。羊飼いの少年が夢を追いかけて旅に出る話だった。

「世界をどう捉え、どうアプローチしたらいいかってことがたくさん出てくるんだ。自分の中に存在するものがどうして存在するのだろうとか、自分の夢や希望や愛に耳を傾け、その情熱に向かって進み続けた時に世界がどう応えてくれるとか。そして巡り巡って自分に戻ってくる。僕らは何かしら夢や目標を追いかけなければならないって思っているけど、最終的には自分の中にあるもので、一日が終わった時に夢や情熱が内に存在していることが価値あることで、外から得られるものではない…という部分が一番に伝わってきたメッセージかな」

 一冊の本が、コリーの「野球が好き」を「野球をやるんだ」に変えた。

「それまで野球選手になるという夢は、小さな町出身の僕にはあまりにも非現実的で、それは別世界の、他の誰かが成し遂げる夢だとどこかで思っていた。でも、この本を読んだ時に、自分が知っている全てが全てじゃない、この人生という旅はすごくエキサイティングで楽しいけど勝手に起こるわけじゃなくて、自分も方程式の一部なんだって初めて自分自身を物語に投影させたんだ」

 主人公のサンチャゴが幾多の困難に直面しながらもピラミッドの宝物を追い求めたように、コリーもまた野球にエネルギーを傾け、メジャーリーグにたどり着いた――。何においても情熱的なコリーの物語を聞き入った後、ふと自分の人生を振り返った。うん、大丈夫。まだまだできる。

 ☆コリー・ギアリン 1986年4月14日生まれ。32歳。米国テネシー州出身。2007年ドラフト4巡目(全体138位)でブレーブスに指名され入団。右横手投げの技巧派投手で11年4月にメジャーデビュー。同年初勝利を挙げ、以降はセットアッパーとしてメジャーに定着。14年にトミー・ジョン手術を受け、オフに自由契約となり15年からジャイアンツへ。その後はレンジャーズ、アスレチックスを経て、現在はマリナーズでプレー。190センチ、90キロ。