マリナーズ・菊池雄星投手(27)が、順調な調整を続けている。すでにオープン戦では2試合に登板し、5回3安打4奪三振(自責点2)。20日に東京ドームで開幕するシーズン初戦(対アスレチックス)から、先発ローテーションの一角としてフル稼働する可能性も出てきた。ただ、日本人先発左腕が1年目から活躍した例は2002年の石井一久(ドジャースで14勝=現楽天GM)ぐらいしかいない。菊池に不安はないのか。元メジャーリーガーで米球界に精通する、オリックスの田口壮野手総合兼打撃コーチ(49)に聞いた。

 ――今季は日本球界開幕前に日本でマリナーズが開幕を迎える。そこで注目を浴びるのが菊池。元メジャーリーガーから見た菊池の評価は

 田口コーチ 1年目からある程度の結果を残すだろうし、普通に活躍すると思っている。

 ――その根拠は

 田口 僕は彼と直接の面識はない。評論家時代に奥さん(瑠美夫人)と一緒にNHKのメジャーリーグの番組をやっていたから、その関係もあって話を聞く程度。でも、彼が語っているインタビューなどの話を聞くと、本当に勉強しているな、と感じる。それに彼は本をたくさん読むそうだから。引き出しが増えることはメジャーでもプラスになると思います。

 ――熱心な勉強家である一方、引き出しが増えることによって頭が混乱する恐れもある。実際に菊池の周辺からは投球時にいろいろ考え過ぎるという声もある

 田口 その心配はないでしょう。野球選手って結局は孤独なんです。投手ならグラウンドに入ってマウンドに立った後はすべて自分次第。自分で考えて何かを見つけていかないと活躍できないし、成長もできない。その意味で研究熱心な点は評価できる。僕はむしろその姿勢は良い方向に出ると思います。

 ――過去にメジャーで活躍した日本人投手の多くは右投手。しかも1年目から活躍した日本人投手は野茂や田中、大谷らを含めフォークやスプリットなど落ちるボールを駆使した。菊池は左腕に加え、ほとんどが直球とスライダー。フォークも球種の一つではあるが武器とは言えない。この点に不安はないのか

 田口 僕が知る限り、彼はフォークはともかくチェンジアップは使いこなせているはず。そうであれば、問題はない。

 ――その理由は

 田口 少し古いかもしれないが、僕がメジャーでやっていたころから、一流の左投手の多くが落ちるボールを使っていなかったので。ランディ(ジョンソン)もそうですし、CC・サバシア、(ヨハン)サンタナ、(デビッド)ウェルズもそうでしょ。僕も最初は不思議に思ったので、メジャーでやっているころに毎日のようにデータを研究してみた。でも大半の一流と呼ばれる左投手は落ちるボールを使わなかった。つまり、メジャーで活躍するうえで、左投手に落ちるボールは必要ないのです。菊池もそれがわかっているからこそ、落ちるボールに頼らないのでしょう。

 ――なぜメジャーの左投手は落ちるボールが必要ないのか

 田口 僕が調べたデータは古いまま。現役時代からアップデートされていないのでどこまで正確なのかはわかりません。でも、一つ言えることはメジャーでは右投手にはある程度の身長と、落差のあるボールが求められる一方、左投手にはそれが当てはまらない。あの長身(2メートル8センチ)のランディ(ジョンソン)ですら落ちるボールはなく、ほぼ直球とスライダーで抑えていた。僕は右打者なのでよく左投手と対戦する機会がありましたけど、ほぼスプリットはなかった。そう考えれば、菊池だって落ちるボールがなくても十分通用すると思うのです。彼もすでにその傾向はわかっていると思います。

 ――では「日本人投手=落ちるボール」や「左投手より右投手有利」は当てはまらない

 田口 そう信じています。日本の常識では「日本人投手は落ちるボールがないとパワーのあるメジャーでは通用しない」と言われがちですが、それは違う。日本の常識は向こうでは常識ではないので。

 ――右投手に求められるものと左投手に求められるものはまったく違う、と

 田口 メジャーの各球団が長年積み上げた打者のデータを見れば答えが出てくると思いますが、右投手に比べ左投手は腕の振りやフォームを含め、独自の動きが求められるということ。だからこそ、過去の日本人の右投手との比較はあまり参考にならない。メジャーでの右投手と左投手を同じ物差しで語ってはいけない。

 ――そのデータや現状を踏まえ、菊池が気をつけなければいけない点は

 田口 自らを見失わないことが大事だと思う。無理に落ちるボールをマスターするとか使いこなす必要もない。彼の場合、素晴らしい直球、スライダーがある。そこにチェンジアップもある。今持っている球種を使いながら自信を持って投球してもらいたい。それが成功につながると信じています。