難病と闘う少年を勇気づけた特大ホームラン秘話

2018年10月06日 11時00分

本塁打王に輝いたデービス(ロイター=USA TODAY Sports)
元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」

【クリス・デービス外野手(アスレチックス)】レギュラーシーズン最後の週末。

 ポストシーズンに勝ち進めなかったエンゼルスのロッカールームには、試合前からバタバタと荷作りをする選手たち。それぞれがオフシーズンに向け、少しだけ浮足立っているように見える。

 対してビジターのクラブハウスでは、カードゲームを楽しむアスレチックスの面々など、和やかさと明るさがあり、勝者と敗者の雰囲気の格差は毎年のこととはいえ、いつもどこか切ない。

 共通しているのは、長いシーズンをともに駆け抜けてきたというねぎらいの気持ち。球場全体が「お疲れさま」と言っているようで、短くなった日を眺めながら少しホッとするのもいつの間にか恒例の習わしとなった。

「疲れ切っているけど、同時にこんなに疲れているのがこれほど気持ちいいと思ったことは初めて」と、入り口付近のアスレチックスのロッカーで、ボーッとしていた自身初のプレーオフを控えたクリス・デービス。

「このチームのけん引役はクリスに(マット)チャプマン」とスティーブン・ピスコティが言っていたので、勝手にしっかり者のリーダータイプを想像していたのだが、このクリスがまたなんともメロー。

「野球以外の趣味? 卓球かな。野球に一番近いと思うんだよね、反射神経的に。やっていると野球もうまくなるんじゃないかって期待感がある」と、よっぽど好きなのかと思えば「僕が卓球やるのはオフに親友が遊びにきた時だけ。うちのクラブハウスは狭いから置けないんだけど、あったらいいよね。でも気が散っちゃうかもしれないしなー」と言うし「筋トレするのが好きなんだ。それは野球用とも言えるけど、別に野球のためにやっているわけでもなくて」「今自分がどこにいるかって聞かれるとよく分からないんだけど、ここまでは長い道のりだったね」などなど、これらを一定のリズムとトーンで穏やかに話すので、なんともつかみどころがないというか。

 個人的には「この世界に入って、注目を集めるようになったのが僕にとっての一番の変化かな。人が僕のことを知っていたり、常に何か頼まれたり、今までとは確実に違うと同時にとても光栄だと思う。子供たちが僕の名前を叫んでたり、ささいなことで感動してくれたり」と言った後で「実は(注目を浴びるのは)あまり好きではないんだ」と言ったのがツボだった。「子供のころからおとなしく、放っておかれたいタイプだったんだ」と実にマイペースな彼が、大リーグで最もホームランを打つのだから、人は本当に見かけによらない。

 そんな彼の今季48本のホームランのうち、37号にまつわるすてきな話がある。

 8月20日、重い病気にかかった子供たちをサポートするメーク・ア・ウイッシュ(願いを込めて)財団の計らいで、まれな小児がん「ランゲルハンス細胞組織球症」から回復に向かっていた12歳のアンソニー・スローカム君が試合前にクリスと対面。アンソニー君がクリスにサインを頼むと「もちろんだよ。ついでに僕のジャージーにも君のサインを書くかい?」とクリス。左肩にアンソニー君のサインを入れたジャージーでその日スタメン出場した彼は、3回に特大な37号を放ったのだ。

「子供ながらに難病と闘っている彼らは本当に大変。僕はただ彼らの顔を笑顔にしたくて、もし自分のユニホームにもサインしてもらったら何か特別な意味を持つんじゃないかって思ったんだ」

 いつの間にか、やってしまう人。クリス・デービスはそんな人だ。

 アスレチックスもまさにそんなチームで、下馬評の注目度は決して高くなかったはずなのに、いつの間にか勝ち残っていた。

 3日に行われるヤンキースとのワイルドカードゲーム。これはもしかするともしかするかもしれない!?

 ☆クリス・デービス 1987年12月21日生まれ。30歳。米国・カリフォルニア州出身。右投げ右打ちの外野手。2009年のドラフト7巡目(全体226位)でブルワーズに指名されてプロ入り。13年にメジャーデビューすると、同年は56試合に出場して11本塁打。翌年からメジャーに定着した。16年からアスレチックスに移籍し、同年に42本、昨季43本、今季48本と3年連続40本塁打以上をマークし、今季は自身初の本塁打王に輝いた。180センチ、86キロ。

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