【元局アナ 青池奈津子「メジャー通信」=ジョシュ・ヘイダー投手(ブルワーズ)】クラブハウスで、ヘッドホンをしながらタブレットの画面を食い入るように見つめ、熱心にメモを取っている選手がいた。見ていたのは「Film the hunt」。狩猟の撮影方法や、そのために必要な基本の機材などを教えるオンライン講座だ。

 ブルワーズのジョシュ・ヘイダー。昨シーズンにメジャーデビューし、中継ぎ投手として大活躍中で、7月にはオールスター戦にも出場した選手。

「6年前だったかな、友人に連れられてオジロジカのハンティングに行ってから、ハマったんだ。一番の醍醐味は自然の中にいること。朝日が昇ると同時に森林が目を覚ますのを感じ、鳥たちのさえずりやリスたちが動き回るのを目撃すると、ただただ感謝の気持ちが湧き上がってくる。狩猟というよりも、ネーチャーの中にいることが自分にとってのメディテーション。俗世間から離れ、自然の中にじっと溶け込むと、心配事も忘れ、命を楽しめる。セラピーとでもいうのかな」

 細身のジョシュは、どこかアーティストっぽい雰囲気があり、それを伝えると「ああ、たまに音楽をかけて一人キャンバスに絵を描くことがあるよ。画家と呼べる才能はないんだけど、感じるままに描くのが好きなんだ」とはにかんだ。

「3年前に写真を始めた。自然の中で出会う自分とは違う命の形だったり、野球の旅の素晴らしい景色を撮りためているうちに、よりキャプチャーしたくて映像が撮りたくなったんだ。木に取り付けられるマウントもゲットして、ハンティング中に身の回りで起こる自然の出来事を記録している。まだ腕は悪いし、編集能力もないから、こうしてオンライン講座で勉強中。ここまでの人生、様々な人に影響を受けてきたけど、ハンティングを知って自分の周りにあるものに感謝することを覚えたんだ。映像を通して自分が楽しんでいる自然を多くの人にも経験してほしい」

 彼は今、高校時代に人種差別や反同性愛的コメントをツイートしたことがオールスター戦直前に明るみに出て、世間からの大批判、大リーグ機構からは感受性訓練の要請を受け、謝罪もしたが、遠征先のマウンドに立てばブーイングの嵐を浴びるというきつい状況に立たされている。

 私は結局、彼にツイートの件は聞けなかった。

「ハンティングも野球も、自分がなり得る限りのベストな自分でいることが大事だって思うんだ。毎日、人としてチームメートとして、プレーヤーとしてより良い自分になれるように、謙虚に、落ち着いて過ごすこと。プロ入りで両親の家を出て、自分自身がすべての責任を負わなければならなくなったことが自分を成長させてくれたと思う」という彼の言葉がとても真摯に聞こえたから。

 もう一つ、印象に残った言葉がある。

「映像は難しい。人生と同じで、そんなに簡単じゃない。でも、好きなことをさせてもらえているんだ。僕は『戦う機会を与えられた挑戦』だと思っている。続けていれば、いずれ心地良くできるようになってくる。野球だって、常に変化していて、打者たちは毎日進化を遂げて打つのがうまくなっていて、投手だって打たれないように進化を続けている。今度は映像というチャレンジがあって、うまくなる機会を与えられているなら、やるしかないって」

 プロ入り前のこととはいえ、許されることではないのかもしれない。でも、取り返しのつかない過ちに対して私たちができるのは、その過ちから目をそらさずにこれからの行動にしっかり責任を持って動くこと。

 新たに加えられたこの「戦う機会を与えられた挑戦」に、彼ならコツコツと向き合っていけるのではないだろうか。 

 ☆ジョシュ・ヘイダー 1994年4月7日生まれ。米国・メリーランド州出身。2012年のMLBドラフトでオリオールズに19巡目(全体582位)で指名され、オールド・ミル高からプロ入り。アストロズ―ブルワーズへと移籍し、17年6月にメジャー初昇格。左腕から繰り出される150キロ超の速球とキレ味鋭いスライダーを武器に、7月のヤンキース戦でメジャー初勝利をマークした。奪三振率の高い救援投手として注目されたが、今年7月、高校時代に自身のツイッターで不適切な発言をしていたことが判明。「過去に犯した間違いを後悔している」「僕は若く無知だった」などと説明し、チームメートには涙ながらに謝罪した。MLBからは感受性トレーニングを受けるなど要請されている。