【広瀬真徳 球界こぼれ話】先週、春の選抜高校野球が終わった。決勝戦は大阪桐蔭が智弁和歌山を破り史上3校目となる春連覇を達成。偉業を遂げた球児たちはすがすがしい表情を浮かべていたが、その光景で違和感を覚えたことがある。神奈川の慶応高を除き、球児の頭髪がいまだに“坊主”だったことだ。

 高校野球といえば昔から坊主頭が象徴的だが、私が通っていた愛知県内の公立校では「野球部=坊主」の規定はなかった。実際、高野連の規定を見ても「球児=坊主」というルールはない。高校野球に詳しい関係者に聞いても「高校生らしい髪形であれば問題はない。坊主頭は甲子園独特の慣習でしょう」と口を揃える。ならば野球漫画の代名詞である「ドカベン」の里中智や「タッチ」の上杉達也のような“長髪球児”が甲子園で躍動してもいいはずだが、実際はほとんどいない。数十年前から長髪はおろか、スポーツ刈りの球児すらごくわずかなのである。しかも取材を試みると、大半の強豪校では「野球部の規則」で球児に対し丸刈りを半ば強要していることが判明。中には規則に反発して野球をやめた球児がいた事例もあった。甲子園球児の「丸坊主」。このまま変わらないのか。

 現在プロ野球で活躍する現役選手に聞くと、この問題に改善を望む声が多かった。強豪校出身の某選手は「サッカーやバスケの全国大会では自由な髪形でプレーする選手が多い。それなのに、甲子園だけは『坊主じゃないとダメ』みたいな雰囲気がある」と愚痴を漏らす。別の選手も「虎刈りとか金髪は論外でしょうけど、もう少し自由でもいい。僕の学校では学校でバリカンを使って強制的に五厘にされました。坊主にして野球がうまくなるわけではないのにですよ」と皮肉交じりに当時を振り返った。また、パ・リーグの助っ人投手にこの話を振ると「自主的に選手が坊主にしているのならいいが、強要されているのであれば問題」と憤慨。「アメリカでそんなことをしたら指導者が訴えられるよ」と苦言を呈したほどだった。

 伝統や慣習を重んじる日本。長い年月を経て成熟されたルールを容易に変更する必要はないが、球児が嫌がる強制的な丸刈りは必要ないはず。そこで先日、甲子園に出場経験のある埼玉の強豪校を率いる監督と話した際、この疑問をぶつけてみた。同監督は「言ってることはわかる。でも…」と渋い表情を浮かべながらこう続けた。

「我々指導者も時代の流れに合わせて生徒の頭髪に口を出したくないのが本音。でも、丸刈りのルールを撤廃すると、どこまでを許容範囲にするかで生徒や親御さんともめることがある。だから強豪校はみな一律で坊主頭にしていると思う。中には規則をなくすと明らかに常識を逸脱する髪形にする生徒もいる。そんな選手が仮に甲子園に出場すれば我々の監督責任が問われる。たかが頭髪とはいえ、意外と難しい問題なんです」

 厳格なルールで球児を縛れば古い規律が改善されず、自主性を重んじれば規律違反者が生まれる。どちらが正しいとは言えないものの「球児丸坊主」の甲子園が続けば子供たちの野球離れを加速しかねない。妙案はないのだろうか。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。