第88回選抜高校野球大会第3日の22日、第2試合で春11年ぶり出場の東邦(愛知)のエースで4番を務めるドラフト候補の藤嶋健人投手(3年)が関東第一(東京)打線を相手に1安打11奪三振の快投。打っても初回に先制適時打を放つなど、チームを6―0と初戦突破に導いた。そんな藤嶋には宇宙人&ボーカリストの一面も…。その素顔に迫った。

 聖地でワンマンショーだった。藤嶋は140キロ台前半の直球を軸に大きく曲がるカーブ、スライダー、カットボールなど多彩な変化球も織り交ぜて関東第一打線を翻弄。完封目前の8回2/3で、松山(3年)にマウンドを譲ったが、被安打わずか1の完璧なピッチングを見せつけた。「内外はっきり攻められた」と胸を張り「最後まで行きたかったけど、松山が1人だけでも今後に向けて投げられたのは大きい」とも話した。

 バットでも4番としての役目を果たした。1回二死三塁から「変化球だけを狙っていた」と115キロのスライダーをとらえ、左前への痛烈な先制適時打。森田監督は「藤嶋中心のウチらしいゲームで力を出すことができてよかった。普段通りの藤嶋が出れば、チームは躍動する」と目を細めた。

 エースで主砲、さらにキャプテンでもあり、まさに東邦の大黒柱だが、普段の藤嶋は“宇宙人ぶり”が目立つという。「投手陣は毎日欠かさず“ピッチャーノート”をつけているんですが、藤嶋は『目指せ』や『狙う』、『意識』の“識”はひらがなで書いてあって、『確認』の“確”はぐちゃぐちゃで、ごまかしている感じ。『甲子園』は“甲了園”になっていた。お前はどこで野球をするんだ、ですよ」と、ある選手は暴露した。

 また、チーム一の美声の持ち主とも言われているそうで、練習や試合への行き帰りのバスの中ではそれこそワンマンショー状態で歌うのが常とのこと。レパートリーは三代目J Soul Brothersの「R.Y.U.S.E.I.」、EXILEの「運命のヒト」、サザンオールスターズの「真夏の果実」。HYの「366日」やE―girls、Flowerなど女性ボーカリストの曲も得意で、別の選手は「藤嶋の歌はめちゃくちゃうまいです。(投打の)二刀流で疲れているはずのに、試合後のバスでも元気にいつも熱唱している。寝ている選手もいる中でね。アイツの体力はヤバイです」と証言した。

 それでいて野球への情熱は人一倍。練習には誰よりも早くグラウンドに姿を現す。「試合になると言いたいことをビシッと言って、みんな黙って聞いている。みんな尊敬しています。オン、オフの切り替えがすごくて練習は絶対にサボらない。リーダーシップがある。普段は天然だけど、ユニホームを着てギアが上がり、グラウンドに出て、試合に出て、今日は甲子園でもギアが上がっていた。アイツには何段回ギアがあるのか、僕らにも分かりません」とナインは舌を巻く。グラウンド内外、すべての面で飛び抜けた存在なのだ。

 1年生だった一昨年の夏に甲子園に出場。1977年夏に1年生ながら東邦の準優勝に貢献した坂本佳一投手にちなみ「バンビ2世」と呼ばれた藤嶋が成長して聖地に帰ってきた。プロも注目する投打の二刀流男が、今大会の主役になるかもしれない。